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桜の降る時
【初恋 恋愛小説】

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桜の降る時-5

 まさか、まさか、あたしと蓮のこと、気付いているの?
 「来週には婚約パーティをするからな。準備をしとくように。では私は橋本くんに会いに行くからな。」
 バタン。と扉が閉まる。あたしは父の部屋に1人取り残された。
 気付いている。父はあたしと蓮の関係に。どうしよう。婚約だなんて…。それに、蓮。父が蓮に何もしないなんて考えられない。影で汚いことをいろいろしてる父のことだ。娘と恋人関係の使用人を快く思うわけがないし、そんな蓮をただやめさせるだけじゃ済まないだろう。
 「蓮、蓮は?どこ?」
 あたしは蓮を探し、屋敷中を走り回った。
 「ま、さくら様。走り回るなんてはしたないですわよ。」
 「いいから、蓮はどこ?」 「蓮、でしたら庭の掃除をしていますが…。」
 あたしの世話係の晶子がいぶかしげな目であたしを見る。
 晶子の言うとおり、蓮は庭にいた。あたしは泣きながら駆け寄った。
 「蓮!あたし結婚させられちゃう!蓮と離れさせられちゃうよ!」
 「さくら様?」
 あたしはさっきの父からの話を蓮にした。
 「いやよ、絶対にいや!蓮以外の人と結婚するなんて。蓮と別れるなんてっ!」
 「さくら様、さくら様。落ち着いてください。」
 泣きじゃくるあたしの肩を掴み、落ち着かせる。
 「もし、私と一緒になってくれると言うのであれば、明日の夜、屋敷裏の桜の下で待っていてください。駈け落ちしましょう。」
 蓮が冷静に言う。駈け落ち…。蓮と一緒になれる。この窮屈な生活から離れ、蓮と2人で生活できる。
 「わかったわ。明日の夜、0時でいい?みんなが寝た頃。待ってるわ。」
 「さくら…。愛してる。明日の夜、待ってるから。」
 蓮は初めてあたしをさくら、と呼び捨てで呼んだ。 あたしと蓮は短いキスをして別れた。
 次の日の夜。あたしは蓮との約束の場所にいた。満開の桜の木の下。桜はまるで雪のようにあたしの上に降る。
 蓮。蓮。早く来て。待ってるから。早く…。
 待っても、待っても蓮は来なかった…。朝日が昇るまで待ったけど、蓮は姿を現さなかった…。

 
 「水城。個人面談、今日は水城の番だから。放課後、進路指導室で待っててね。」
 あたしは今日、大遅刻をした。理由は寝坊。たっぷり寝て、たっぷり夢を見た。桜の下で誰かを待ってたあたし、泣いてたあたし。泣いてた理由がわかった。駈け落ちの約束をしてた「蓮」が来てくれなかった…。
 「水城?聞いてる?」
 「え?あ、はい。」
 ぼーっとしてたんだろうか?藤森先生の言葉が耳に入らない。
 そういえば…。「蓮」って、藤森先生も蓮、だよね。変な偶然。

 放課後。進路指導室であたしは藤森先生を待っていた。今日みた夢を思い出しながら。
 「お待たせ、水城。」
 また手にコーヒーを持ちながら藤森先生があたしの前の椅子に座る。
 「水城さ。最近ぼーっとしてるって他の先生も心配してた。どうかした?今日も珍しく遅刻なんて。」
 「夢…、見てました。長い夢。」
 「夢?この前言ってた?…桜の下で誰かを待つっていう?」
 なぜ藤森先生があたしの夢の話をしたのかわからなかった。
 あたしが不思議そうな顔をしていると、先生はゆっくりと話し始めた。
 「もしかして、その夢に、蓮って名前の男、出てこなかった?」
 「な!なんで知ってるの?」
 驚いた。藤森先生の口からあたしの夢のなかの登場人物の名前が出てくるなんて…。
 「蓮、は俺だよ。さくら…。ずっと探してた。君のこと。正確にはさくらの生まれ変わりの君を。」
 蓮は藤森先生?あたしはさくらの生まれ変わり?


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