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不貞の代償
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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威圧-3

 通された部屋で待つことしばし、女将のあとに初老の男が現れた。二人は慌てて立ち上がった。
「岩井です。お待たせしましたかな」
 濁った太い声を放ち入ってきた。顔はテレビで何度か見たことがある。他の議員を圧倒する体格であることも知っているが、間近で見ると一回りも二回りも大きく感じた。歩くたび、真っ青な畳がミシリと音をたてる。岩井一人の巨体でたちまち室内が狭くなった。
 約束の時間よりずいぶん早い。岩井の性格を垣間見た気がした。早めに出てよかった。田倉はそっと胸をなで下ろした。
「本日はお忙しい中、貴重なお時間を割いていただき、まことにありがとうございます」
 田倉に続き沼田も深々と首を垂れる。新しく作った名刺に部長の他に役員と記されているので、岩井の面子が立つ。
「堅苦しいあいさつは抜きにしましょう」
 当然のように上座に腰を下ろした岩井に簡単に自己紹介をした。
 権力者に弱い沼田は先ほどの威勢は影を潜め、口をすぼめ、肥えた体を丸めてしゃちほこばっていた。田倉も岩井から発散される圧力に気圧され、緊張していた。
「早速ではございますが……」
「まあ、そう慌てないで酒でも飲んでから、ではいかんですかな。腹も減っているし、飯でも食いましょう」
 オールバックにした髪を撫でつけながら遮った。
「聞いてからでは不味くなるかもしれませんからな」
 沼田の丸めた体がますます丸くなる。田倉もうつむくしかない。
 岩井はパンパンと手を叩いた。すぐに「承知いたしました」と部屋の外から女将の声が聞こえた。廊下で控えていたらしい。要人にはそうなのだろう、女将自ら給仕を始めた。
 岩井は鷹揚な態度で背広のポケットから葉巻を取出した。田倉と沼田は火を持っていないことをわびると手のひらを見せ、座卓の上にある置いてある優勝カップのような置物をつかんで、それで火を付けた。まさかライターだとは思いもよらなかった。沼田もそう思ったらしく、身じろぎしたのが分った。
 目を細め下あごを突きだし、口と鼻からブワッと煙をはき出す。岩井がぐるりと首を回すと、ゴキゴキと音がした。光沢のある脂ぎった顔に岩のような体躯。七十の老人とはとても思えない迫力であった。
 正座をしたひざの上に両手を置き、田倉は視線を落としてジッとしていた。ハンカチで額をぬぐう沼田が視界に入る。宴の支度が調うまでみな無言だった。岩井は背を向けて前屈みで給仕をする女将を、半目に開いた目で追っている。
「どうぞごゆっくり」
 支度を終えた女将は、流れるような身のこなしでかしこまり、畳に両手をついた。障子の外でもう一度一礼をする女将に、岩井は口元をほころばせてうなずいた。こちらに視線を戻したとき沼田と目があったようだ。沼田の慌てたような動きが目の端に入った。
「では、食いましょう」
 田倉がビールをつかむより沼田の方が早かった。こういう時の沼田は素早い。
 手が震えるため、差し出されたグラスにカチカチとビール瓶の口が当たり、そのつど米つきバッタのようにペコペコした。
「地域限定の地ビールでしてな、これが法外な値を付けよる。まあ、しかしこれがなかなか旨い」
 沼田はコップより頭を低くして岩井にビールを注いでもらう。
「沼田さんでしたかな」
「は、はい」
 名を呼ばれた沼田は伸び上がるようにして返事をした。
「どうです?」
「……は?」
 ニヤリと笑う岩井に沼田はポカンとした顔を見せた。
「年は食っとるが、なかなかいい女だと思いませんか?」
「あ、ええ、そうですね、いや、あの……」
 沼田は慌てた。
「若い頃はそら別嬪だった。しかしあれでなかなか堅い。尻を撫でたらのう、『この次までにシリコンでも入れて整えておきましょうか』などと切替えしおったわ」
 沼田の追従笑いが聞こえた。
「もっともワシはもうこのとおり老いぼれ。色欲なんぞ、とっくのとうにありゃせんですが、おなごは好きは治らんで困っています」
 岩井は塩辛声で豪快に笑った。


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