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蒼い日差し
【その他 官能小説】

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蒼い日差し-3

 風呂に浸かりながら淫らな想像が頭を離れなかったのはどうにもしようがない。こんな出会いと巡り合わせは人生にそうそう起こり得ることではない。
(N・Yと同じ旅館にいる……)
そう思うだけで体が熱をもってくる。だが本気で彼女を何とかしようと考えたわけではない。相手はトップクラスのアイドル女優だ。

「N・Yの裸を想像したことあったか?」
訊かれて私は、
「いや、ないよ。あり得ない」
彼女は汚れなき存在であった。誰にも触れさせたくない、永遠の処女であってほしい女神であった。
「俺もそうだった。だけどそれが変わるんだよ。徐々に生々しい女として見えてくるんだ。きっかけはバスに並んで座っていた時だ」
彼女の体臭に昂奮したという。
 甘酸っぱいような仄かな匂いが流れてきた。汗と体臭、香水などが入り混じった、それは馥郁とした一種の性的香りとなって鼻腔に充満していった。思わず抱きしめたい衝動にかられるほど気持ちが昂ぶった。

「その後に同じ旅館だ。……昂奮するよ。……まだある……」
 仲居がやってきて、食事はどちらのお部屋にご用意しましょうかと訊いてきた。別々だと答えると、
「お連れ様がご一緒にと。お客様にどちらかお任せするとおっしゃって」
俺は動揺を隠しながら自分の部屋を指定した。

 やがてノックをして入ってきた彼女は浴衣姿。その印象は、装飾をまとってカメラに微笑む女優ではなく、伸びやかに初々しい若い娘だった。漆黒の長い黒髪が肩までかかり、化粧を落とした色白の頬はまだ湯上りの火照りを残していた。
「ご無理なお願いをして……」
彼女は席につくと丁寧に頭を下げた。
「ご迷惑をおかけしたので、ここは私に払わせてください」
そして俺の言葉をさえぎって、
「まだお願いがあるんです。実は、私は……」
「Nさん、ですよね?N・Yさん」
彼女は恥ずかしそうに目を伏せて頷いた。
「おわかりでしたか……」
「途中から……。ファンです、大ファンです」
「ありがとう……申しあげようと思いながら、つい……」

 彼女の頼みとは、二、三日同行させてもらえないかというものだった。
気晴らしに旅に出たくなって計画も立てずに家を出たものの、一人では目立ちすぎるし、何をするにしても不安なので……というのである。
「一人で旅行したことなんてないのに、無茶しちゃって……」
「お仕事柄、いろいろストレスもあるんでしょうね」
もっともらしいことを言いながら鷹揚に頷いて了承したが、内心は有頂天になるくらいの歓びだった。

「お忙しいのによく時間がとれましたね」
「たまたま一週間ほどオフになって……」
 あのN・Yが目の前にいる。二人で食事をしている。しかも俺の部屋で。明日も一緒なのだ。彼女が恋人で俺たちは隠れ忍んでひそかに旅行を楽しんでいる。そうだったらどんなに素晴らしいだろう。俺は妄想の中で一人飛び跳ねながら美しいN・Yを見つめていた。

 諸岡が布団に入ろうかと言うので、私たちは最後の酒をコップに満たすと、うつ伏せになった。
「それから、どうした?」
続きを促した。
「翌朝は暗いうちに目が覚めちゃったよ」と笑った。


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