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曼珠沙華
【SM 官能小説】

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(後編)-1

老人ホームの部屋の窓からは、潮の匂いとともに秋の夜風が心地よく漂ってくる。

月灯りの中に樹木の枝がひょろりと伸び、風を孕んだように微かに揺れている。
私は、K…という作家の「眠れる美女」という読みかけの本を閉じ、窓の方へぼんやりと視線
を移す。
「谷 舞子」という女と会って以来、私の中に潜む艶めかしい性の呻きが閉じられた肉の欲望
を押し開こうとしていた。


あの旅館の老婆の言葉が、ふと脳裏に浮かんでくる。

…ここは安心できるお客様だけしかお受けいたしません…あなたのような性欲を失ったご老人
の殿方ばかりという意味です…そして、愛おしいほど過去の女の夢を見続けている殿方です…
あなたは眠っている女の傍に寄り添うだけでいいのですよ…ただ、女のからだの隅々まで愛撫
することで、あなたは深い眠りに誘われ、眠ったままで夢心地の懐かしい性を甦らせることが
できます…老いた殿方の一夜だけの儚い夢とでも言うのでしょうか…

私は、傍のスタンドの灯りを消し、ベッドからゆっくりと立ち上がると窓辺に佇む。窓から見
える月灯りに照らされた曼珠沙華の花が、月の仄かな光を吸い込みながら混沌とした漆黒の眠
りについていた。

このまま深い眠りにつきたかった。眠っているあいだに私はふたたび「谷 舞子」という女に
会えるかもしれない。妻ではないが妻として私を充たしてくれる女…。彼女のことを想うと、
私は身震いするような性の欲情をからだの隅々まで感じることができる。

どんなに淫らであっても、生き生きと澄みきったものが私の肉体の内側と外側を這いまわり、
心と性を同化させながらひしひしと絡みついてくる。それは私がこれまで遠くに追いやってい
た性の憧憬をふたたび私の中に描いてくれるものだった。


私はその夜も「谷 舞子」という女の夢を見た…。

女は私の傍で眠っていた。彼女の乳白色のとろりとした乳房には、ふくらみの上下を挟むよう
にきりきりと幾重にも縄が喰い込み、やわらかな乳肉が、今にももぎ取られるくらい厳しく
緊めあげられていた。

女は縛られた胸部の乳首をふるふると震わせ、なめらかな線を描く腹部の窪みに蒼い翳りを
溜め、むっちりとした白い太腿のつけ根には、淡い繊毛に覆われた肉の合わせ目をひそやかに
のぞかせていた。その肉の花弁のあわいは、きらきらとした花粉で染められ、どこからか迷い
込んできた蝶を誘い込むように蠢いている。

その姿を見ていた私は、自分の体の芯から精をじわじわと搾り取られるような欲情に充たされ、
まるで砂漠に泉が湧くような血流を萎えきったペニスに感じたのだった。その瞬間、私は何か
にとりつかれたように無我夢中で女の体に肌を寄せた。

女のしなやかな肉肌が渇ききった私の皮膚に粘りついてくる。私は、自分の体の芯を炙りたて
られるように彼女の乳房を強くつかんだ。皺枯れた指先を蜘蛛のように真っ白な乳房に吸いつ
かせ、縄で鋭く喰い緊められ、乳汁が滴り落ちそうなくらい乳肉の張った乳房を烈しく揉みし
だいた。熟れすぎた乳房が色濃く波打ち、私の指にねばっこくまとわりつき、蕩けるような
乳肉が千切れんばかりに悶え喘ぐ…。

…ああっ、あっ…

「谷 舞子」という女は、瞳を閉じたまま悦楽に酔ったように嗚咽を洩らす。


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