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異種間交際フィロソフィア
【ファンタジー 官能小説】

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食用魔獣の大暴走-5


 *****

「ドラゴンは駆除しました!落ち着いてください!」

 土砂降りの雨の中、新入り退魔士たちが、懸命に混乱を収めていた。
 道の困難で大幅に遅れたが、救急隊もなんとか到着し、怪我人の治療に当たっている。
 事件の道は丸ごと封鎖され、ベテランの退魔士たちが被害調査を行っていた。
 
 二頭のドラゴンは瓦礫の上に倒れ、切り裂かれた喉からドクドクと鮮血の川を放出していた。
 その赤を、たたきつけるような豪雨が洗い流していく。

「いやはや、残念。ドラゴンなんて滅多にない狩りだったのに、出遅れちまったなぁ」

 まだ若い退魔士は、両眼を潰されたドラゴンの頭部を、ブーツの爪先でつっつく。ワックスでツンツンに逆立てていた短い金髪が、雨で額にへばりついていた。

 退魔士の制服は、裾長の黒い半袖上着で、背中と胸元に銀色の十字架が刺繍されている。
 素肌に直接着ている黒い上着は、前の一部だけを留めていた。
 開いた胸元に、首からさげたごついゴーグルが目立つ。

「手負いなんかじゃ、幾ら殺してもたぎらねぇ。余計なことしやがって」

「口をつぐめ、ジーク!不謹慎だぞ!」

 濃い髭を蓄えた年長の退魔士が、青年をギロリと睨んだ。
 肩章以外は同じ制服だが、着崩したジークとは違い、下にきちんとシャツを着込み、厳格で真面目な性格が装いに現れている。

「はーい」

 ジークは肩をすくめ、敬礼した。
 退魔士の部隊は上下関係が特に厳しい。
 特に真面目な性分ではないが、この職業が好きだし、天職だと思っている。
 上司と揉めて謹慎なんて、真っ平御免だ。

「お前もそこらを回って、何か手がかりがないか調べろ」

「了解」

 もう一度敬礼し、瓦礫を踏みつけドラゴンから離れる。

 隊長がイライラするのは当然だ。
 住宅地でドラゴンが暴れ出すなんて、ここ数十年ない大事件だし、建物の被害も凄まじい。
 瓦礫で重傷者が十数人でたが、死者が出なかったのは奇跡だ。

 目撃者の証言では、幼女を危ういところで救った男と、ショベルカーで大暴れした少女がいたらしい。
 幼女は無事に発見されたが、その男女は姿を消してしまった。
 パニック状態の群集は、男女の人相をはっきり覚えておらず、人によって言う事が違うときた。
 そしてドラゴンの両目を潰し、少女を連れ去ったのは、巨大な狼だとわめきたてる奴が多数いる。

 ここにいる奴ら全員、ヤクでもやってるんじゃねーかと思うような、バカげた証言ばかりだ。

(隊長はクソ真面目な正義感の塊だからねぇ……)

 噂の真偽を確かめなければ、気がすまないだろう。
 だが、この豪雨で現場はグチャグチャ。
 逃げたという狼を探そうにも、匂いは雨で消えうせ、部隊の犬も役に立たない。

「――ん?」

 泥と瓦礫の中に、グシャグシャに壊れたショベルカーが半分ほど埋まっていた。
 シートの隙間から、キラキラ光るものがはみ出ている。
 よく見れば、ラインストーンのついた可愛らしいストラップだった。
 引っ張ると、機体とシートの隙間に落ちていた、最新式の携帯小型端末が姿を現す。
 工事作業員のものかと思ったが、どうもストラップが可愛らしすぎる気がした。

 他人のプライバシーなど、ジークにとっては飴玉一つに劣る。
 迷わず電源を入れ、中身をチェックした。
 幸いにも壊れておらず、一番上の写真データには、スーツを着た男女が仲よく写っていた。
 ハーフエルフの少女と人間の青年だ。

(あれ?この女、確か……)

 あまりに平凡な容姿のハーフエルフを、どこかで見たような気がした。
 記憶を引っ掻き回し、ストラップを再度見て、ようやく思い出す。

(そうだ!あの特賞者だ!!)

 一見オシャレな可愛いストラップだが、よく見ればピンクの飾り文字はゲームタイトルだ。
 半月前に開催されたゲーム大会の、限定発売品だった。
 ジークはそれほどゲームをやらないが、ちょうど非番だったので、ゲーム好きの知り合いに、半ば引きずられて付き合ったのだ。
 そいつが色違いの同じものを買っていたから、よく覚えている。

 あの大会で本戦最初に敗退した女が、驚異的な追い上げで優勝者を打ち破った瞬間は、ジークでさえも、少なからず血がたぎったものだ。

「ふーん……」

 これがここに落ちているということは、ショベルカーでドラゴンと対峙した少女は、彼女なのかもしれない。
 ジークの勘が、ピリピリと告げる。

(女を守ったデカイ狼……消えた男……まさかなぁ)

 突拍子もない憶測だが、もし当たっていれば、とんでもない事態だ。
 もう一度画面を良く見る。
 少女の隣りで、暗灰色の髪をした精悍な顔立ちの青年が、穏やかな笑みを浮べていた。
 

(いやはや、たぎるねぇ……)

 ペロリと唇を舐め、ジークは端末を誰にも見つからないよう、ポケットに素早く突っ込んだ。



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