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『graduation』
【青春 恋愛小説】

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『graduation〜ウェディング〜』-10

「あの...先生。真田さんは今日は来ないんですか?」

からかわれること覚悟で聞いてみると

「あぁ彼女?今日は随分早くに来たよ。なんでも友達の送別会で飲みまくるから明日は会社休みをとったんだって。その分今日中に原稿を会社に持って帰って校正しなければならないって言ってた。」

「そうですか。」

雪見の携帯番号を知らない俺はどこで待っていればよいのか分からず、途方に暮れた。

「いつものトコで待っててくれ、って言ってたよ。」

ニシシシシという音が聞こえるように二階堂教授が笑った。

「そういう伝言は初めに言ってください。」

タヌキ教授に別れを告げ、若干の雑用をこなしてから『ゼロ』でいつものように1杯目のシャンディーガフを頼む。

それが運ばれてきた頃に、雪見はやってきた。花柄のワンピース。

「一回家に戻ってから来ちゃった。」

スーツでない彼女はとても若く、学生に混じっても全く違和感がなかった。

「さぁ今日は飲むわよ。明日休みをとったから。」

気合十分の彼女に勝てるわけもなく、2つ目の店を出たときには2人とも大人にあるまじき酔い方をしていた。

終電はとっくに過ぎている。

酔い冷ましに寄った公園で雪見は吐くし、俺は半分眠ってしまうし、色気もなんもあったもんではなかった。

でも楽しくて。
大学生に戻ったように2人ではしゃいで、噴水の周りをグルグル走ったりした。

「失敗したな。雪見が教授のとこ来てるの、もっと早く知っていたら、もっと長く一緒に飲めたのに。」

遊び疲れてベンチに座りながら呟いた。後ろに手をついて空を見上げると梅の香りがした。

「それは無理だよ。私、最初、佐伯に見つからないよう必死に時間ずらして二階堂先生のとこに原稿とりに行ってたんだもん。」

事もなげに雪見は否定した。

「だから半年前会っちゃったのは失敗だった。会いたくなかった。避けられるものなら、避けたかったよ。再会なんて。」

雪見も俺の真似をして空を仰いだ。

「佐伯はホント何も知らないし、何も気付かない。」
「雪見だって俺の事、何も知らないだろ?」

反撃すると

「いや知ってる。大学一年の時に未来に告ってフラれ、その後、里美に映画誘われたのに断って、それから...」
「うわぁヤメてくださいっ」

そう言えばこいつは裏で「データバンク」とあだ名されるほど情報通だった。

「あとはねェ...」

にこにこしながら雪見は続けた。


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