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サディスティック・スパイラル
【SM 官能小説】

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第一章 ポンプ-3



待ち合わせ場所にあらわれた小宮山は、普段通りのスーツでやってきた。まさか本当に和服でやってくるとは思っていなかったが、冴子との初デートに似合わない、おしゃれをしてきてくれることぐらいは密かに期待していた。
普段通りのスーツでも100キロを超える巨体で短躯な姿は、それだけで十分滑稽な姿ではあったが……。
「き、今日は来てくれてありがとう。いやああ、暑いね」
普通の人が丁度よい気候でも小宮山には暑く感じるらしい。しかし、小宮山がのぼせるのも無理はなかった。冴子はこの日、思い切ってミニのワンピースを着てきたのだった。
いつもはキツク縛ってある髪をほどき、優雅に後ろに流している。小宮山でなくとも健康な男性なら、のぼせ上がるに違いない。
「い、いきましょうか」
冴子と小宮山は並んで歩き始めた。冴子のほうが頭一つ分高くなる。
すれ違う男性やカップルさえも、冴子の姿を上から下までさりげなく確認していた。すらりとした冴子は黒髪を後ろに跳ね上げて颯爽と歩いた。
冴子を十分に観察した視線は隣りで歩く小宮山を見て驚きの目でもう一度冴子を見直していた。どう見てもアンバランスなカップルは雑踏の中で、目立ちすぎていた。
冴子は、もし小宮山が安居酒屋にでも案内しようものなら、その場で帰るつもりだ。たとえ相手がどうでもいい小宮山であっても、自分の価値を下落させるようなことは許さないつもりだ。
そんなことはおくびにも出さず、明るい笑顔で小宮山の誘導に黙ってついていった。
「あのさ、片桐さんはビール、飲めるよね?」
そんなことくらいあらかじめ聞いておくのがエスコートする方のマナーではないか。冴子はイラッとくる感情を抑え込で口角を女優のようにあげて、わざとらしく明るく答えた。
「はい。何でもイケますことよ」
「は、ああ、よかった」
小宮山は冴子の感情など全く気が付かず、本当に喜んでもらえたと思い笑顔で額の汗をぬぐっている。冴子はビールと聞いて益々居酒屋路線が強くなってきたことに顔をこわばらせた。
繁華街から少し離れた大通りの一角で小宮山が止まった。
「ここの二階なんだけど……」
冴子が見上げるとガラス張りの清潔な店内が、夜の暗がりを明るく照らしている。どうやらビアレストランらしい。
(まっ、いいかぁ)
怒りを爆発させずに済んだことに冴子自身もホッとして自ら二階の店舗へと広い階段を上がって行った。小宮山も内心は心配していたのか下から窺がうような目をして汗をぬぐっていたのだが、冴子につづいて慌てて階段をあがっていった。

店内に入ると入口に丸い大きなカウンターが目に飛び込んできた。
「いらっしゃいませ。二名様でございますね。では、あちらのテーブル席はいかがでしょうか」
カップルはテーブル席。そんなふうに教育されているのかアルバイトらしき若い男性店員は、窓際のテーブル席をすすめてきた。
「ううん。こっちがいいわ」
冴子は店中央に位置する巨大なビールの樽を連想させるカウンター席を指差した。まだ込み合う時間より早いせいか客はまばらだった。空席が目立つ店内で、一番目立つ場所を希望する客はほとんどいないのか、店員は少し戸惑ったような表情をした。
「ダメかしら」
語尾を上げて顔をかしげた冴子の美しさに我に返った店員は慌てて視線をそらせた。そして小宮山に向って
「ど、どうぞ」
と誘導した。
「綺麗なお店ね」
「あ、うん、うん」
小宮山はカウンターのスツールに巨体がはみでるように腰かけた。冴子は小宮山にたいして斜めを向き、浅く腰かけ足を組んだ。
ピッタリ服が太腿に貼りつき嫌がおうにも艶めかしい足が目につく。
注文したビールで軽く乾杯した後でも小宮山は居心地がわるそうにすわっている。口説くどころか一向に話しすらしてこない小宮山に、痺れをきらせて冴子は助け舟をだしてやった。
「こんな綺麗な店、奥さんと一緒にいらっしゃるの?」
「僕は独身だよ。僕なんかにお嫁さんにきてくれるヒトなんかいるわけないじゃん」
小宮山が独身なのを知っていて聞いたのだが、いきなりこんな親しげな答え方をされて、すでに冴子は一緒に飲食にきたことを後悔しはじめた。たとえ酔っていても、会社の人間と話しをする時はくだけた話し方をすることもなかったし、されることも嫌いだった。
(今日はそうそうに引き上げた方がよさそうね)
「で、小宮山さん、大事なお話があるんじゃなくて」
畳み掛けるような冴子の質問に小宮山は絶句してから、慌ててビールをあおった。
「僕のね、僕が作ったポンプの素晴らしさをみんなもっと解ってほしいんだ」
そう口火をきった小宮山は、自慢のポンプを語ることに活路を見いだしたように一方的に話しはじめた。冴子は最初こそ熱心に聴く素振りをしていたが、一向にとまる様子のない話にうんざりしだした。
面白い口説きを導き出すよう、スツールに浅く腰掛け直して腿の露出を演出して、色仕掛けをしかけても見るそぶりすらうかがえない。
時間をもてあまし、やたらとビールをあおるしかなかった。そのために小一時間に頻繁にトイレにたつはめになった。
ラジオのように一人で喋る小宮山を後目に冴子は店内の若い店員の品定めをして時間をつぶしていた。いくら飲んでも酔わない冴子だが、日ごろの疲れが溜まっていたのか身体がいつもより怠い感じがした。
それに何だか火照る。
その火照りがだんだん疼く感覚に変わっていった。今日の相手が谷俊介だったら、間違いなく“味見”していたことだろう。さすがに小宮山にその気持ちはわかない。
(早く家に帰って……ふふふっ)


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