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『ITUKI』
【純愛 恋愛小説】

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『ITUKI』-10

朝、目を覚ますといつきが出掛ける準備をしていた。時計の針は七時。こんな早くに彼女が起きている事自体初めてだった。
目を擦りながら体を起こすと、いつきはすでに玄関先に座って靴を履いていた。「どこに行くんだ?」
「ん、ちょっと・・・。すぐ戻るから」
曖昧な返事をかえすと顔も見せずにそのまま出ていってしまった。
行き先を言わずに出掛けるのはいつものことだ。別に気にすることはない。
僕はベッドから抜け出ると、軽い朝食を摂った。
今日は大学も休講だったからゆっくりしていたかったのだが、一度目が覚めると寝ているような気分にはなれなかった。
畠山からの電話が鳴ったのはちょうどその頃だった。

「はい、もしもし」
「大城か、俺だ」
「畠山くん?どうかしたの」
畠山から掛かってきたということは、二条さんに何かあったのか。
僕は息を呑んだ。
「いや、どうということもないんだけどさ・・・」
畠山の声はしかし、暗い素振りではなかった。
「今、暇か?」
「別に、予定はないよ」
「そうか。よかった」
僕が答えると彼はほっとしたように、息を吐いた。
「実はいま、大城の家の近くに用事があってきてるんだ。
それで、ついでにお前んとこのアパートに寄らせてもらおうと思ってさ。
・・・行っていいよな?」少し迷った。だが、畠山はもう来る気でいるようだ。結局、僕は二つ返事でOKした。
「よし。じゃあ5分くらいでそっちに着くからな」


しばらくするとインターフォンが鳴って、畠山が来たのだとわかった。
僕はドアを開けて、彼を中に招いた。
「へえ、結構広いじゃん。それに良くきれいにしてあるし・・・」
部屋に入るなり畠山は物色をはじめた。
このアパートに誰かを入れたのは、いつきに続いて彼が二人目だ。
掃除をまめにするようになったのも、いつきが来てからだった。
「用事ってなんだったんだい?」
「買い物だよ。俺等の地元じゃ揃うモンも揃わないだろ。それに比べて便利だよな、この辺は」
と言った彼の両手は大きな買い物袋を二つさげていた。中に何が入っているのかはわからなかったが、相当な量だ。
「重そうな荷物だな」
「そうなんだよ、今日は歩いてきたから喉がカラカラなんだ」
畠山は暑い、と言って額の汗を拭っている。 なんだか、お茶か何かださないといけない雰囲気になってしまった。
僕がお茶をいれてだすと、畠山は一気に飲み干した。「サンキュ、生き返ったよ」
僕が苦笑いを返していると、畠山は部屋の一角を食い入るように見ていた。
「どうしたの?」 何気なく首を傾けると、僕は愕然とした。
畠山の視線の先にはベランダの窓しかない。
そこに、あろうことか女物の下着がぶら下がっていたのだ。
もちろん、いつきの私物だった。
「ふーん・・・」
「あっ、その、それは・・・!」
浮気相手を見つけられた夫みたいに僕は取り乱した。畠山の脳裏にあらぬ誤解が生じるのではないか気が気ではなかった。
「大城って付き合ってる彼女とかいるんだ」
と畠山が言った。僕は大げさに首を横に振った。
「そんなんじゃない」
「そうか?一緒に住んでるんだろ。それって同棲じゃん」
「別に、本当になんでもないんだ。困ってたから、部屋を貸しただけさ」
と僕は半ば意地になって反論していた。いつきが聞いていたら、気を悪くするかもしれない。


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