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『ITUKI』
【純愛 恋愛小説】

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『ITUKI』-11

「でも、意外だな。真面目そうな大城が女を連れ込むなんて」
と畠山は言った。今度は違う方向に誤解しているみたいだ。僕は、面倒臭くなって言い訳するのを止めた。「二条のことは諦めたのか?」
急に僕はびっくりして顔を上げた。
畠山の目は確信めいた光を帯びていた。
「気付いてたよ、お前の気持ちはな・・・高校のときからずっと。 だから、事故の時もちゃんと電話して、知らせたんだぜ。」
驚きを、隠せなかった。誰も関わらなかった高校の僕を、見ていた人がいた。
他人と触れ合うことを避けていた僕を、理解して、分かっていた人がいたなんて思いもよらなかった。
素直に胸が熱くなった。
「ありがとう」
と僕は言った。
「また、二条さんの見舞いに行ってもいいかな?」
「もちろん。きっと皆も歓迎してくれるさ」
畠山はそう言って笑顔をつくった。人当たりのいい明るさが、表情に滲み出ていた。
初めて、僕はこの人を友達として見れた気がした。
畠山が帰った後に見計らったように、玄関のドアが開いた。
「ただいま」
と一言だけ言うといつきはさっさとベッドに潜り込んだ。
疲れているのか、顔色が少し悪かった。
「どこに行ってきたんだ?」
彼女の背中に声を掛けた。いつきは肩を揺らしただけで何も答えなかった。
僕にはそんないつきが不安に見えて仕方なかった。
「思い出した事でもあるのか?話してみろよ」
「・・・いやよ」
いつきが呟いた。ふてくされた子供みたいに一切僕を見ようとはしなかった。
明らかに機嫌が悪そうだ。いつきはしかし、理由もなく怒るほど淡泊な性格じゃなかった。
「おい、いつき」
僕は口調を強めて無理矢理こちらに向かせた。
「触んないで!」
肩に掛けた僕の手を、いつきは振り払った。その目が赤く充血していた。
「どうしたんだ、お前。
今日、何があったんだ?話してみろ」
「私のこと、知ってるくせに。喋んない人に話すことなんかないわよ」
苦々しげにいつきが言った。その通りだった。
僕は彼女に黙ったまま言おうとはしなかった。
今の今まで深く追求してくるようなこともなかった。なぜ、いつきが急にそんなことを聞くのかわからなかった。
「宏和は私に何か隠してるでしょ?」
僕は頷いた。頷くしかなかった。
「私、自分が誰なのか知りたい。知るのは恐いけど、あなたの口から本当の事を聞きたいのよ。だから、お願い」
いつきは、はっきりと僕を見て言った。手を伸ばし、膝の上で垂れ下がっていた僕の手を彼女が掴んだ。
「・・・わかったよ」
言葉を探し、僕は言った。もう、本当の事を伝えるしかなかった。


夜遅く、病院に入った僕らは真っすぐに彼女の病室へと向かった。 すでに消灯に近い時間だったが、電話に応対した桐原さんの計らいで「5分だけ」特別に許してもらったのだ。
いつきはずっと黙ったままだった。落ち着いた表情で静かに僕のすぐ後ろを歩いていた。
3〇3号室の前にくると、さすがに緊張した。 手前の壁には彼女の名前を記したプレートがある。 いつきはまだ、気付いてなかった。
僕は一度大きく息をついて、それからゆっくりと戸を開けた。
カーテンに閉められたベッドの向こうに無機質な機械音が鳴り響いていた。
近くに立って振り向くと、いつきはこくんと頷いた。僕は左手でカーテンを引っ張った。思いの外、勢い良く開け放たれた視界に、二条伊月が映った。
数日前に見たときと、全く同じ顔をしていた。意識がないのだから変わり様がないのだが、それでもなにか悲しい気持ちになった。


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