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やわらかな光り
【その他 官能小説】

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やわらかな光り-9

(9)


 何かが触れたようなかすかな物音。テレビをつけていたら聞き逃してしまうほどのノックだった。
 そっと開けるとカーディガンを羽織った紀子が立っていた。廊下を振り向き、素早く身を入れてきた。湯の香りがした。

 テーブルは窓側に押しやってある。紀子は畳の部分を布団に沿って歩き、前屈みの格好でその前に座った。
「朝晩は冷え込みます」
「そうだろうね」
「山壊ですから、底冷えして……」
学生時代に信州を旅しているから秋の夜の寒さは経験している。いまはエアコンが完備されているので布団も薄手でだが、昔は重苦しいほど重ねてあったものだ。

「お茶、淹れますか?」
手持無沙汰なのか、言ってから私がまだ酒を飲んでいるのを見て急須から手を離した。
 ひとしきりとりとめのない会話を交わして間が空くと、居心地の悪さが漂う。

 動いてくれたのは紀子のほうである。
「暗くしていいですか?」
「うん……」
私は立ち上がって、
「全部じゃなくていいね」
返事を待たずに豆ランプを残した。

(暗い……)と感じたのはほんの一時で、思いのほかはっきりと姿が浮かんだ。
 背を向けた紀子が服を脱ぎ始め、私も浴衣と下着を外して布団に横になった。ちょうどブラウスがはらりと肩から滑り落ちて胸の曲線があらわれた。
(下着を着けていない……)
そのことにときめいた。
 紀子は正座をしている。そのままいったん動きが止まり、ゆっくり膝で立って腰を浮かせるとスカートを回してホック位置を近づけた。その仕草は作為がないだけにかえって悩ましげに見える。ちらっと横顔を見せたのは私の視線を感じたからだろう。

 やがてどっしりと量感をたたえた体が白く浮き上がった。たるみはあるものの、わずかな動きで波打ちそうな肉感である。
 ふたたび正座すると脱いだ服をたたみ、重ねてテーブルの下に押しやった。
「きちんとしてるんだね」
紀子は振り向いて息のような笑いを洩らした。
「癖なんです。子供の頃から」
 一呼吸置いたあと、意を決したように腰を上げた。腕で胸を被いながら横たわって小さく吐息した。静けさの中にも潜むような二人の気配が感じられる。

 腕を彼女に差し入れ、やさしく抱き寄せる。
(やわらかさ……温もり……)
しっとりした肌の質感は持ち前のものだろうが、加えて湯の潤いも伝わってくる。抱きしめているだけで癒される心地であった。

 紀子は泣くように喘いでしがみついてきた。
「お客さん……」
抱擁の実感が私を圧してくる。
(何年ぶりだろう……)
反応ある肉体……。
体が熱くなって、忘れていた昂奮が駆け巡る。

 上になって顔を見つめた。閉じていた目が開いた。
「恥ずかしい……」
「可愛いよ、とっても」
薄暗いのに眩しそうに目を細めた。
「そんなこと、言われたことありませんよ」
豊満な乳房が私の胸と密着してつぶれている。体を離すと夏みかんのように復活した。
(求めている……求められている……)
訴えるような瞳が意思を伝えているのがわかる。抑えていた欲情が堰を切った。

 様々な愛撫に合わせて紀子は必死に声を呑み込む。堪えた反動で全身が小刻みに震えてきた。
「お客さん……」
絞り出す呻き声。そして大きく伸び上がった。結ばれる前に紀子は引き攣った声を出してぐったりとなった。


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