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デリシャス・フィア
【その他 官能小説】

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11-2

 街の風景に溶け込んでいるその後ろ姿は、とても魅力的で、無防備だ。
 花織よりも高い位置からの視線が、目標物を捉えて背後から近づいていく。

 さりげなく相手を窺いながら、それはもう日常の中のしぜんな出来事と変わらないモーションで、陰湿な目的を果たそうとしていた。

 緊張した息づかいがすぐそばまで迫っているというのに、花織は首を傾げて音楽に聴き入っている。

 二人のあいだに距離はない。

 あ──。

 気配に気づいた花織は振り返る。
 そしてその人物の顔を確かに見た。



 バスは時刻通りにバス停にさしかかったが、そこに人がいないのを確認すると、速度を上げてそのまま通り過ぎた。

 風景がフェイドアウトしてスクリーンが真っ暗になった直後、『デリシャス・フィア』のタイトルが浮かび上がり、流血のように文字が溶けていく。

 ここでエンドロールが流れた。

 岬花織

 霧嶋優子

 小田佑介

 黒城和哉

 平家悠利

 美山砂羽

 徳寺麻美

 植原咲

 秋本文子

 数馬良久

 S大学ミステリー同好会スタッフ一同

 動画が終わるタイミングで部屋の証明が点いて、学生の一人がパソコンからUSBを抜く。

 それを合図に、気持ちいいほどの拍手と歓声が部屋中に湧き上がり、そこに居合わせた全員の表情に光が差した。

 ハイタッチ、笑顔、肩を組み合う仲間。

 このときばかりは男女のボーダーラインを越えて、それぞれが睦まじく喜びを分かち合った。


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