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デリシャス・フィア
【その他 官能小説】

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 ショッピングモールのエントランスはたくさんの人を吸い込み、吐き出してはまた吸い込み、人の流れは血管を通る血液のように循環して、目的を持った者と、そうでない者とがせわしく交錯している。

 ここに来れば大概の用が済んでしまうことを考えれば、それだけで小さな街だとも言えるだろう。

 外は生憎(あいにく)の雨だ。
 屋内だというのに外よりも明るく照りつける照明に、つい天気を忘れてしまいがちになる。

 それでも、ショップの顔でもある個性的なディスプレイに目を向ければ、季節ごとに違った表情を見せるファッションや、雑貨や、スイーツに至るまでが、儚い四季を感じさせてくれている。

 たとえば、海の向こうの文化と日本文化が同居している場面を目にしたとしても、やはりそこは日本人の海外への憧れなのか、不思議と違和感は感じない。

 もうハロウィンの時季が来たんだ──。

 そう思いながら立ち止まるけれど、すぐに足先を別の方向へと切り返して、昼だか夜だかわからないモール内を人混みに紛れて歩き出す。

 ふと、携帯電話の背面ディスプレイに目をやる。
 二十二時を少し過ぎている。

 終電には間に合うか──。

 彼女はレストルーム手前の『青い人』と『赤い人』とを目視したあと、迷わず『赤い人』の案内に従う。

 監視社会となってしまった現代といえども、さすがに彼女のそれを監視カメラで追うわけにはいかない。

 だからこそプライベートな空間には、どこか特別な匂いがするのだろう。
 とはいっても、鼻で嗅ぐ匂いとはまたニュアンスが違うのだ。

 あるときは、一人暮らしの女性の部屋。
 あるときは、婦人科クリニックの診察室。

 そんなふうに何気ない日常の場面と個人的な嗜好の波長とが合ったとき、彼らにしか嗅ぎ分けられない特異な匂いがするのかもしれない。

 彼女たちの意図しないところで、誰かが鼻を利かせているとすれば、多分そういうことだろう。


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