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デリシャス・フィア
【その他 官能小説】

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 性犯罪で涙を呑むのはいつだって女性である。
 被害者が皆おなじ大学の可愛い後輩ということもあり、花織にしてみれば、自分に迫り来る恐怖に泣きたい気分でもあった。

 ごった返すマスコミ連中から非難してカフェに来ていた花織の元に、小田からのメールが届いた。

『彼女たちの脱水症状の原因がわかった。薬だ。それもかなり変種の媚薬らしい。黒城から情報を提供してもらったから、次のメールを待っていてくれ』

 花織は目をまるくした。
 媚薬と聞くだけで、どこか他人事とは思えない暗いイメージが湧いてくる。
 二の腕が寒い気がした。

 間もなく、二通目のメールが届く。

『媚薬には多種多様なグレードが存在するらしい。一つ、ビギナ・ヴァギナ。未熟な膣という意味。名の通りの初心者向けの薬である。一つ、グラマラス・ドリップ。豊かな淫液という意味。性交や自慰経験さえあれば抵抗なく使える中級用の薬である。一つ、キング・アンド・クイーン。王と妃の戯れという意味。比較的手に入りやすい熟年用の薬である』

 花織はここで一つ、二つと呼吸をあらためて、メールのつづきを目で追った。

『手に入りやすいといっても媚薬は媚薬だ。体に合わなければ日常生活に悪影響を及ぼす。そしてもっとも重要なのは、それらを凌ぐほど強力な媚薬が存在するということだ。デリシャス・フィア。甘美な性的恐怖という意味だ。こいつは依存性が高く、女性のほとんどは極度の興奮状態がつづいて、脱水症状があらわれるらしい。ごく一部のマニアのあいだでしか流通しないハイリスクな媚薬が、ネットのおかげで誰にでも簡単に入手できる環境になってしまった。それを象徴する事件こそが、今回の女子大生連続強姦事件というわけだ』

 小田と黒城が解き明かした脱水症状の正体に、花織は納得の表情を浮かべた。
 メールの内容をもう一度読み返してみて、今度はその顔を強ばらせる。

 レイプは連鎖しているのだ。

 つまり、第三のレイプが執行されたとき、それは同時に第四のレイプの予告を意味する。
 次に狙われるのは、植原咲を発見した人物ということになる。
 それを考えたとき、花織の頭にはもう親しみ馴れたその人物の面影しか浮かんでこなかった。

 優子──。

 大切な親友の羞恥に染まる様子を、嫌でも想像させられてしまう。

「けほ、けほ……」

 気持ちばかりが焦って咳き込んだあと、花織は言いたいこともまとまらないうちに小田へ電話した。


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