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「ふたつの祖国」
【その他 推理小説】

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前編U-13

「そ、そんな事……出来るのかよ」
「ある程度なら、もっと小さな物の特定も可能ですよ」

 鶴岡の酷い驚き様に、龍崎は屈託の無い笑顔で答える。

「一応、私達が考えたんですよ!」
「あ、あんたが!」
「うちと本庁の写真係、それに〇〇大学の研究室との共同開発なんです!」

 龍崎麗奈、23歳。〇〇大学在籍中は、さる教授の研究室で映像処理研究に没頭していた。
 警察庁の依頼による画像解析開発に従事している最中、腕を買われて警察官となった。
 以来、〇〇県警鑑識課に所属する。

「人と言うのは、見た目じゃないな……」
「何か、言いました?」
「い、いや。何でも無い」

 橋本課長は、今頃ほくそ笑んでるな──鶴岡は、別の意味でそう思った。





 鶴岡が、龍崎の画像解析術に感嘆していた頃、島崎と岡田を乗せたクラウンが署に戻って来た。
 先に上司の高橋へ報告し、今後の捜査法を班で協議する事となった。

「実行犯による目撃者の殺害、隠蔽がなされたとすると、我々の行動もですが、誰が目撃したかまで知られている事になります」
「何だって?」

 島崎の報告に、高橋の顔がみるみる蒼褪めた。

「つまり……島崎さんは、署に内通者がいると言うのか?」
「そこまでは……。ですが、我々の行動は逐一、見られているのは確かな様です」

 殺害された野村年夫が目撃者だと知る者は、直接証言を聞いた鶴岡と岡田を初め、限られた人間しか知らない。手口の鮮やかさからすれば、内通者がいると考えるのが自然だ。

(だが……)

 係長を含めて、この案件に関わっている者の中に、犯罪組織の内通者がいると言う考えは、彼等の行動を鑑みて有り得る話では無い。それよりも、我々の動きを監視するだけの大きな組織が関わってると、考える事も可能だ。

 高橋が帰宅した後、島崎は鶴岡を除いた関係者全員を集めて、今夜起きた案件を有り体に伝えた。
 私見は一切挟まず、事実のみを知らせる事によって、忌憚の無い意見を引き出すのが狙いである。

「──だとすると、犯人は逃亡せずに、こっちの動きをずっと窺ってるんでしょうか?」

 最初に、島崎班の善波一樹が口火を切った。

「善波さん、幾ら何でも……検視は自殺ですから」

 そう答えたのは、善波の後輩である藤沢俊介だ。

「しかし、遺体は消えた。ちょっと変だな」

 さらに、佐野班の斉藤明義が意見を言うと、後は中島真梨子、児島隆雄を加えた五人が、議論を交わし出した。
 組織も年齢もバラバラとは言え、長年、刑事畑で過ごして来た猛者達であり、一人々が一家言有る、経験を活かした他の発言に、時には肯き、時には否定し、議論は進んで行った。
 そんな意見が飛び交う中、島崎と岡田は、じっと静観の構えで行方を見守っていた。


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