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「ふたつの祖国」
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前編U-14

「──班長」

 そしてもう一人、ずっと黙していた佐野が徐に手を挙げた。

「彼等の意見全部が、一つではないでしょうか」
「どういう意味だ?」
「つまり、前の案件と今回の案件。そして我々を監視し、内通しているのが、一つの組織だと言う事です」

 島崎の中に衝撃が走る。岡田は、佐野の言葉を待っていた。

「しかし、殺害方法が余りに違い過ぎるだろう」

 善波の意見に、佐野は首を横に振った。

「おそらく、最初の殺害は“裏切り者の見せしめ”だろう」
「裏切り者……?」
「殺害された男は、ある組織が別の組織に植え込んだ……」
「……!それがバレたから、あんな殺し方で目立つ場所に」

 佐野と善波のやり取りを、島崎以下、全員が聞き入っている。

「だとすれば、我々を監視して目撃者の野村を殺し、遺体を隠したのは植え込んだ側の組織と言う訳か!」
「あくまで、私の考えだが……」

 佐野の言葉が止むと、誰も口を挟む者は無かった。それ程の衝撃を与えていた。
 相対する組織が有り、その一方は、殺害した遺体を消す事を造作も無くやってのけ、警察内部にまで食い込んでいる可能性を持っている。

「こりゃあ……生半可にやってると、こっちも危ないな」

 児島が言った。長年、組織犯罪に関わってきた経験が、そう言わせた。

「班長、班長はどうお考えですか?」

 ここで初めて、岡田が口を開いた。

「確証は無いが、今後は佐野の推測に沿って行動した方が良いだろう」
「でしたら、情報の共有化は極力避けて、全てを知る人間を絞るべきだと思います」

 岡田の提案に全員は肯いた。

「では、今後は私が全てを把握し、佐野に伝える事とする」
「課長や高橋には、どうします?」

 善波が訊いた。

「高橋はともかく、課長に知らせないのは……」

 藤沢も同調する。上司である高橋を“呼び捨て”にする所に、彼等の高橋に対する蟠りが窺えた。
 島崎は、しばし考えて答える。

「いや。この際、信頼度の有無は考え無い様にして、暫くは私が伝える事以外、二人への情報は制限しよう」

 島崎にとって、これは賭けである。幾ら案件解明の為とは言え、明らかな越権行為を働くのだから、下手すれば、降格処分どころか警官を馘になりかねない。
 しかし、島崎に異存は無い。犯人解明は勿論だが、彼の中に涌き上がっているのは、警察組織に巣食う犯罪者の根絶であり、その為ならば刺し違えても本望だと思った。


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