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美しき姦婦たち
【その他 官能小説】

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聖なる淫水(2)-2

(7)

 食事が済んで彩香が後片付けをしている後ろ姿を見ているうちに、ふたたび頭の中が霞むような錯覚に見舞われた。
 テレビの音声が流れ、洗い物をする水音と食器の触れあう音。そんな生活の物音を聞いていると『暮らし』の実感が甦ってくる。陽子の面影が過ったのではない。切ないことにこの時の『暮らし』には彩香がいた。たった二日のことなのに陽子を押しのけて彼の頭は彩香で満たされてしまっていた。
(明日はこの子と一緒に過ごせる……)
そう思ったとたん、妄想と同時に動揺が起こり、混乱し始めた。理性の壁が音もなく崩れ出したのである。それを崩しているのは他ならぬ自身の邪念であることはわかっている。しかしどうすることも出来ずに崩壊の感覚を感じ続けていた。ひいていた汗がじっとり首筋ににじみ出てきた。

(抱きたい……抱きしめるだけ……いや、肌に触れるだけ……)
それなら可能かもしれない。肩を抱く。腰に手を回す。許される範囲ではないか。この子が甘えてきたらそれに応じるだけならいいだろう。
 都合のいい方向に思考が働いて、罪悪感が見えない風となって消えていった。

「明日もパンでいいでしょう?」
「ああ。休みだからゆっくりでいいよ。俺が作ろうか?」
「いいよ。あたしのほうが上手だと思うよ」
彩香は言ってから、
「どうしようかな、ケーキ。あとにしようか……」
その言い方は独り言にも聞こえるし、坂崎に同意を求めているようでもあった。

「シャワー浴びて、さっぱりしてからの方がいいんじゃないか?」
彼は気持ちを抑えながらさりげなく言った。一緒に入ろうとは冗談にも言えない。
「そうだね。そうしよう」
言うなり、部屋から着替えを持ってきた。
「さっぱりしてケーキ食べよう。伯父さんも入るでしょう?」
「うん。後から入るよ」
「一緒に入ろうよ」
「……うん……」
言葉に詰まってやっと頷いて笑った。

(救われた……)
気持ちが軽くなった。だからといって禁断の扉を破壊したわけではない。理性が崩れかけたとはいえ、限界は持っているつもりである。あくまでも、
(伯父と姪……)
昨夜から何度も繰り返してきた抑制の呟きがかろうじて理性にへばりついていた。

 髪を洗うというので、その間、彼はリビングで待つことにした。想いを乗せた体の反応は如何ともし難い。カチカチに跳ね上がってとても治まりそうもない。堂々と見せるつもりはないが、昨夜体験しているのでなるべく自然にしようと思った。
 ただ、昨日と異なるのはやや踏み込んだ気持ちの在り方である。今日は突然の展開ではなく、彼女に触れたいという明確な願望がある。その下心が彩香に伝わりはしないか。不自然な振る舞いになりはしないか。それが心もとなくて脆弱な心情に自信がなかった。

「いいよ。伯父さん!」
彩香の声が響いて聴こえた。
「いま行く」
何とか怒張がおさまらないかと仕事のことなどを頭に浮かべてみたが、効果はなかった。

 タオルで股間を被ったのは仕方のないことで、彩香の目の前に身を入れるのだからさらけ出したままとはいかない。
 濡れた髪が頬に張り付いた彩香が振り向いた。どきっとするほど色っぽい。
「あたしがお湯かけてあげる」
「うん……」
坂崎がマットに座り、立ち上がった彩香が背中にシャワーを当てた。
「気持ちいいな。彩香はもう洗ったの?」
「髪だけ。体はまだ」
間を置いてから、
「じゃあ、背中、洗ってあげようか……」
口に出してから顔が熱を帯びた。
「うん。洗って。あたしも伯父さんのこと洗ってあげる」
「洗いっこだな」
笑いながら応じたが、もはや冷静ではない。タオルで被った股間は充溢の極致でもがいている。


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