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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第16話-12


(誠治さん?)
 “変則投手”であることから、主に1イニング限定のリリーフを務める一方で、その器用な打撃技術も買われ、前期の半ばから2番・右翼に入るようになった葵は、ベンチに戻ってきてすぐ、誠治の冴えない表情に気がついた。
 他の面々には、いつもどおりの柔和で穏やかな表情に見えているだろうが、そのわずかな差異は、四六時中ともにいる葵だからこそ、察知できることだった。
「………」
 それが気になる葵ではあったが、自身の打席がすぐ廻ってくることもあり、バットとヘルメットをそれぞれ用意しながら、後ろ髪引かれつつベンチを後にして、ウェイティングサークルに入った。
「アウト!」
 1番の迫田は、追い込まれた末に平凡な当たりのショートゴロに打ち取られた。右打者である彼は、見上げるほどの長身である能面の、さらに、角度のあるスリークォーターから投げ込まれて、自分のスイングができなかったようである。
「横から見るより、相当に大きく感じる。球筋も微妙に動いているから、気をつけろ、水野」
「はい、ありがとうございます」
 迫田の助言に頷きを返し、葵は左打席に入った。
(…確かに、大きい)
 葵の身長は、女子の中ではかなり大きな方で、170センチを越えている。それでも、2メーターを越える能面に対しては、やはり、見上げる形になっていた。能面の身長は、“規格外”なのである。
「………」
 その大きな身体が躍動するようにして、投球モーションが始まり、葵に対する初球が投じられる。
「ストライク!」
 それは、微妙なシュート回転の軌道を描きながら、内角を貫いてきた。
(ストレート? でも、迫田さんの言うように動いている…)
 しっかりと振り切らないと、芯を外されるばかりで、凡打の山を築きそうな球筋であった。
「ストライク!!」
「………」
 二球目も、内角にストレートが来た。それもまた、微妙なシュート回転を交えてきたので、これは明らかに、直球でありながらブレる球だと葵は確信した。
(ツーシーム・ファストボール、なのね……)
 いわゆる“ムービング・ファストボール”のことである。“ツーシーム”と呼ばれるほうも最近は多いので、葵は今様のそちらを呼び表していた。
「ボール!」
 三球目は、外角に逸れるボール球。
「ボール!!」
 それが、二球続いた。
(でも、ボールは良く見える)
 見下ろされる感じはするものの、それに惑わされなければ、球筋そのものは追いかけやすいと感じた。今の二球をしっかりボール球と見定めることができたのは、その証である。
「ファウル!」
 内側に抉るような直球を、それでも臆することなく葵はスイングして、バットに当てた。
「ファウル!!」
 今度はインハイに入ってきた球威のあるボールを、葵はしっかりバットで追い切って、それをファウルにしていた。
「ボール!!!」
 焦れたように、外角の際どいところへ一球投じてきたが、それはシュート回転をしてコースから外れた。選球眼に難のある打者なら、手を出して凡退していただろう。
「ファウル!!!」
 続けてきた外角を、今度はストライクゾーンに入っていると判断した葵は、しっかりとバットに当てた。
「………」
 身体が非常に柔らかく、また、新体操の動きを通じて、その隅々まで神経が通っているような感覚を体得している葵は、あまり目立っていないが、実は“隼リーグ”でも、トップクラスのバットコントロールを有している。好球が来るまでファウルで粘り続け、出塁に繋げることが多い。
 狭いストライクゾーンを有効に活かし、粘りの強い打撃を信条とする“納豆打者”が、双葉大学の片瀬結花が持っている異名なら、柔らかいスイングでバットをボールにしぶとく当ててくる水野葵は、さながら“蒟蒻打者”であった。
「!」
 粘り負けをしたように、内角ではあるが高低は真ん中に当たる場所に、ボールが来た。


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