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栗花晩景
【その他 官能小説】

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夏雲-3

 今泉の初体験の話はずっと私を被っていた。彼は私がまだ女を知らないことを見抜いていたと思う。だから当てつけにそんな話をし始めたのかと思っていたが、後から考えると私の背中を押す意味であったのかもしれないと思うようになった。

「高校の同級生に好きな子がいてな。付き合ってたんだ」
キスはおろか手を握ることもできなくて、卒業してしまった。
「俺は東京の大学、その子は地元で就職した。文通はしてたから付き合いは続いていたんだ」
 夏に帰ったら抱きたい……。そう思っていたが、初体験。不安に苛まれていた。
「その頃椎名町の喫茶店でアルバイトしててな。そこのママさんが初体験の相手なんだ。三十代くらいだったかな」
独身だが彼氏だかパトロンだかわからないが、年配の男が時々やってきて泊っていくようだった。

「彼女はいるの?」
客が途絶えた合間にいろいろ訊かれ、話すうちに心を許し、彼女のこと、自分の想いも打ち明けた。
「離れてるから余計気になるんでしょ」
「はい……」
「今度帰ったら思い切って自分のものにしちゃいなさい」
(そんな簡単にできれば迷ったりしない……)
苦笑して黙っている俺の気持ちを彼女は察していたようだ。それは後から思い当たったことではあるが。……

「お酒飲める?未成年だっけ」
「ビールなら飲んでます」
「じゃあ、店が終わったらちょっと飲もうか」
上に向けて指を差した。二階が住まいになっているのである。

「その晩、手ほどきを受けたってわけだ」
私は言葉を呑み込んで話の続きを待った。
 初めは飲んで話をすることしか考えていなかったが、胸騒ぎを覚えたのは、
「シャワーを浴びて上で待ってて」と言われたからだ。
 気になったのは年配の男だが、その日は完全にシャッターを下ろしたから今夜は来ないのだとわかった。

「部屋には布団だ敷いてあった……」
言われるまま部屋で待っていると、やがてシャワーを使う音が聞こえてきた。
 まさかと思いながらも昂奮してくる。
「信じられないから不気味な昂奮だったよ……」

 しばらくしてあでやかな浴衣姿のママさんがビールとコップを持って現れた。
「さあ、さっぱりしたところで飲もう」
コップを合わせて乾杯をした。ママさんは半分ほどを一気に飲んで、
「ああ、おいしい」
湯上りの温もった肌の香りが流れてきた。洗い髪の間に白い項が覗く。
「すごい色気だったよ。俺はもうびんびんになっちゃって、ビールを一気に飲んでみたけどまったくおさまらない」
俯いていると布の擦れる音がした。見ると布団の上で浴衣をはだけている。
(!……)
豊かな乳房がおしげもなく現れてたわわに揺れている。思わず目をそらした。
(なぜ……)と考える余地もない。
どうしていいかわからない。

「見て……」
言われて顔を上げると、彼女は立ち上がり、ごく自然な所作で浴衣が滑り落ちた。下着はつけていない。大胆な行動なのにそれを感じさせないのはどっしりとした落ち着きのせいだろうか。
「あなたも一緒に……」
促されて全裸になった。恥ずかしさはない。
「若い体ね。たくましい……」
陰茎は脈打ち、跳ねながら漲っていた。

 ママさんは仰向けに寝て、膝を立てて開脚した。そして指で秘裂を開き、
「ここにペニスを入れる。セックスはそれだけじゃないわ。でもまず結ばれることから始まるの。そこから広がっていくのよ」
 やさしく愛撫してゆっくり導くのは理想だが、なかなかその余裕はないだろうから、とにかく一つになることを考えなさいと言ったという。
「だけど一方的じゃだめ。自分の部屋でいきなりなんていうのは止めたほうがいいわ。相手の気持ちがわからないから」
てっとり早い判断はホテルだという。誘って、付いてくれば決意がわかる。たしかにそうだ。

 ママさんはコンドームを取り出した。
「必ず着けなきゃだめよ」
仰向けになったママさんにのしかかっていくと押しとどめられた。
「やさしさを忘れちゃだめ。彼女もたぶん初めてでしょう?いきなり乗ってきたら覚悟してても体が逃げちゃうわ。ふんわり重なるように」
深呼吸して間を取って、先端を押しあてて体を進めた。難なく先がくぐり、しびれるような感覚が広がった。
「そこからは一気に。ためらうと彼女も腰を引くわ」
上ずったママさんの声に押されて、初めての男を突き刺した。

 やがて処理をして汗をぬぐっているとママさんが見上げて微笑んでいた。
「もし失敗しても慌てないで。時間をかけてもいいんだから……迷いなんか飛び越えちゃえ……ふふ」
ママさんは声を出して笑った。

「という話だ」
今泉は私を見て笑った。
「それで、彼女とはうまくいったのか?」
「いや、夏に帰ったらもう彼氏ができてた。就職すると早いよな。好きだったら迷ってちゃだめだよな……」
晴香の淋しそうな顔が脳裏に浮かんでいた。


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