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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第15話-25


(ほんと、でかいなぁ)
 響に対して、軽い会釈をしてから、打席に入った桜子の能面に対する印象である。チームでも一二を争う背の高さを持つ桜子だが、そんな彼女をしても、マウンドに立つ能面に見下ろされている感覚がある。
「………」
 雄太が一塁にいるので、能面はセットポジションから初球を繰り出してきた。
「ストライク!」
 真ん中に来たかと思ったストレートが、ナチュラルにシュートして、内角を抉ってきた。一瞬、スイングを仕掛けた桜子だったが、振りにかかる寸前に球がぶれるのが見えたので、それを止めていた。
(確かに、隼人さんと似た球を投げてる…)
 ベンチで岡崎と大和が言っていた“ムービング・ファストボール”のことだと、桜子は再確認をする。
(でも……)
「ストライク!!」
 同じように、今度は更に内角の厳しいところに食い込んできたシュート気味のストレートを、初球と同じように桜子は見送る。多少、腰を引いたが、ストライクゾーンをかすめたようで、主審の腕は空に上がっていた。
 三球目である。能面が視線で一塁走者の雄太に牽制を送り、セットポジションの構えを取ると、桜子はグリップを引き絞るように握った。
「!」
 振られた腕には目もくれず、桜子はストレートの軌道を凝視する。世界を相手に戦ってきたその動体視力は、角度のある球の軌跡をしっかりと追いかけて、ボールのぶれる瞬間もはっきりと捉えていた。
(ここ!)
 桜子のスイングが始動する。大和とともに重ねてきた素振りの成果である、強烈なベクトルを有したそれが、わずかに内角に向かってシュートしてきた能面のストレートに襲いかかった。

 ドガキン!

「おおっ!」
 桜子が放つ、豪快な打撃音を残して、右中間に大きな当たりが飛んでいく。
「いったんじゃねえか!?」
 打球を見ながら二塁ベースを駆ける雄太は、その上がった角度に、オーバーフェンスを期待した。
「………」
 だが、打った当人の桜子が、ベースを廻りながら渋い顔をしていた。
「アウト!!!」
 桜子にとっては、案の定というべきだったものか、打球は失速して、中堅手の伊地知の守備範囲に落ちていった。彼はそれをランニングキャッチであったがしっかりと掴んでいた。
「チェンジ!」
 双葉大学の初回は、無得点に終わった。
「うーん、残念」
「でも、いい当たりだったよ」
 レガースとプロテクターを用意していた大和に、その装着を助けてもらいながら、桜子は今の打席を振り返ってみる。次の回で打席が廻る、大和に情報を与えるためでもある。
「隼人さんに比べて、どうだった?」
「えっとね。角度は能面くんの方があるんだけど、ボールそのものは見やすかったかな」
「そっか…」
「あと、シュート回転したのが全部だった」
「なるほど…」
 天狼院隼人の投げた“色即是空”は、シュートとスライダーが織り交ざった“ムービング・ファストボール”だった。だが、能面が投げるそれは、現時点においてはシュート回転に限定しているようだ。
「あたし、ちょっと力んで、アッパースイングになっちゃった」
 高く上がりすぎた分、打球は風の影響を受けて失速したのである。
「気をつけるべきは、そこなんだね」
「うん」
「ありがとう、桜子」
 一打席目というには充分な情報を、大和は得ることができた。
「じゃ、いこう!」
 レガースとプロテクターを身に着けた桜子は、打ち合わせはその場で終わりとばかりに、駆け足で持ち場に向かっていく。
「ああ、いこう!」
 大和もまた、桜子の躍動が乗り移ったかのように、飛ぶような足の運びで、マウンドに向かっていった。


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