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母娘指南
【その他 官能小説】

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母娘指南-2

 デートは週末の金曜日と決まっている。同じ会社でも退社時間がなかなか合わないらしい。金曜日だけは全社員定時に終わる方針なのだという。その朝は、
「今夜は夕食はいらないから」
わかっているのに早紀は嬉しそうに言って出て行く。そしてたいてい十時ごろ、足音と会話が聞こえ、彼が早紀を送ってくる。

 三か月ほどしたデートの夜、十一時を過ぎても帰らず、心配していると十二時近くになってタクシーで帰ってきた。
「遅かったのね。守さんは?」
「遅いから失礼しますって……」
何だか疲れた様子だった。
 いつもならその日の食事のことなど、何かしら話をするのだが、黙って浴室に入っていった。

(結ばれたんだわ……)
直感した。きっと初めてだったのだと思う。まだ気持ちが昂揚して揺れているにちがいない。無我夢中で抱き合ったのだろう。
(早紀……)
想像したら疼いて、じわっと濡れてきた。

『その日』から二か月あまり、夜中の帰宅は何度かあった。そろそろ結婚の話も具体的になっていくだろう。そう思っていた矢先の早紀の暗い表情。

 早紀は俯いたまま黙っている。
「どうしたの?」
返事を待たずに、
「守さんと喧嘩でもしたの?」
少しからかう調子で訊いた。
「あたし、結婚できないのかな……」
目には涙が浮かんできた。ただごとではない。
「早紀……」
佳代は胸を衝かれて言葉を呑み込んだ後、気を取り直して呼吸を整えた。
「悩みがあるんなら話してみて。一人で抱えてちゃよくないわ」
大人になった娘の涙は重く、辛いものである。優しく誘うようにかけた言葉にも早紀はぽろぽろと涙を流すばかりであった。話を聞くのは無理なようだ。

「今日は休んで、気持ちが落ち着いたら話して」
何か打ち明けようと決心したからこそ佳代の前にやってきたのだろう。だがまだ迷いの中にいるようだ。佳代は不穏なものを感じて性急に問いただすのを避けた。


 翌日の夜、早紀はすべてを語った。訥々と途切れがちではあったが、熟慮した上で意を決したのだろう、もう涙は見せなかった。

「あたしたち、うまくいかないの……」
早紀が切り出し、
「性格とか、好み?」
話を引き出すつもりで訊くと、
「ううん。……セックス」
いきなりだったので返事も出来ず、あとはじっと聞くばかりで相槌すらしばらく打てなかった。

 いままで何度試みても果たせないという。よほど悩みぬき、自分の思考範囲を超えて、どうにもならなくなったのだろう。露骨な言葉も恥じらいなく口にした。
 ホテルに四回行ったけど挿入できなくて、
「この間伊豆に旅行に行って……」
明け方近くまで頑張ったけれど、やはり一つになれなかったという。

(やっぱり……)
というのは、先々週の土日にかけて急に女友達と旅行すると言い出して、前夜には会社の同僚と名乗る女性から待ち合わせ時間の確認ですと言ってわざわざ固定電話に連絡があった。ふだんすべて携帯を使っているのに変だなと思ったが、彼との外泊をカモフラージュしたということだ。
 それはともかく、悲惨な旅行になってしまったようだ。気まずい朝を迎えてどこにも寄らずに帰ってきたという。
(そういえばお土産がなかった……)

 それにしてもそこまで交われないなんて。二人とも初めてだったとしてもちょっと考えられないことである。ひょっとして、守さん、
(不能?……)
まず疑ったが、そうであればそもそもホテルに行くだろうか。
「守さん、ちゃんと勃起するのに入らなくて、すぐ射精しちゃうの」
早紀のはっきりした物言いにびっくりした。

 話は進み、結局のところ、手間取っているうちに果ててしまうということで、つまりは不慣れだということになろう。繰り返し挑戦することでそのうち結ばれる。彼が過敏なのか、二人とも意識過剰で緊張しすぎるのか、どちらにしても焦らず体を合わせ続けるしか方法はないだろう。
「初めはみんなそうよ。すぐ慣れるわ」
作り笑いを交えながら何とか答えたが、早紀はなおも深刻な顔で迫ってくる。
「お母さん、あたしのアソコ、見てくれない?」
思わず絶句した。
「守さんが、きつくて入らないって……」
瞳は訴えるように、縋るように佳代を見つめる。そこまで言うのはよほどのことなのにちがいない。
「守さんがそう言ったの?」
「指入れたら一本でもやっとだって」
「まあ……」
なるべく動揺を見せずに冷静を装った。
「自分で、確かめてみたの?」
「だって怖いもん。入れるの」
(だから、あたしに……)
もし早紀の体に異常があったとしたら……。そんなことはないとは思うが……。
だが、見るっていっても、どうすればいいのか。考えもまとまらないうちに佳代は頷いていた。


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