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雨のもたらすもの 〜Rain of Love〜
【青春 恋愛小説】

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雨のもたらすもの 〜Rain of Love〜-2

ともあれ、正面玄関に辿り着いた時には、雨足は、スコールのとまではいかないものの、前方は霞み視界は大分悪くなっていた。最近のこの時間は、よくこういう雨が降る。これも温暖化の影響なのかしら、と想像。
「うわっ、ひどいな〜……」
隣に立つ亜弥子や、玄関の廂のところで空を見上げる吹奏楽部の子たちも同じように呟く。
「とりあえず帰ろっか」
「うーん……、しょうがないか」
もう降参、とばかりに諦めモードな亜弥子の声に思わずクスリ、と笑ってしまった。


玄関を出て、屋外の部活のグラウンドを下に見る周りより小高くなった遊歩道。小さい傘に二人、談笑しながら歩いていく。
 ウチの高校はこのあたりでも高台に位置しているため、この道はとても眺望が良い。晴れた日には散歩やランニング、サイクリング、などなど、沢山の人が来るのだが、流石に今日は下校する生徒くらいしかいない。
「今回の数学のテストの平均点、かなり高いらしいよ」
「ウッソ、マジで? あたし、かなりヤバ気味かも……」
「代わりに物理が低いみたいだけどね」
みたい、というよりは実際低い。私のクラスでは今日の三校時目で返却されたが、学級平均は37.4点。学年平均と余り変わらないらしく、物理担当の濱田先生が嘆いていた。もっとも、私は71点と今回としてはかなり調子が良かったのだけど。
濱田先生は、『また白髪が増えちゃうよ』とか言っていたけど、お調子者の藤森くんが速攻で、『センセ、それ以上白髪になる髪、無いッスよ』と実に的を得たツッコミを入れ、学級の大爆笑を誘っていた。


と、そんな下らない内容の話をしながら、私と亜弥子はサッカー部のグラウンドの近くに来た。
ふ、と気付けば、一人だけ、サッカー部員とおぼしき人影がゴール前で、沢山散らばったボールの中、傘もささずトレーニングウェアのまま足を投げ出していた。
 「何か、あんなとこで黄昏ちゃってんのがいる〜」
 亜弥子も気付いたようだ。
恐らく単独でシュート練習でもしていたのだろう、ゴールの中にもかなりの数のサッカーボールが転がっていた。雨に降られちゃって可哀想に、なんて思ってみていると、どうもその背格好には見覚えがあった。そして仄かな懐かしさも沸き上がってきた。
 そのまま歩いていき、人影のすぐ横の辺りまで来た時、思わずドキッ、と胸が高鳴るのを感じた。
そう。その人影は雄大だった。
雨が降り始めてからもずっとグラウンドに座っていたのだろうか、少し長めの髪からは雨が滴りおちている。雨雲を見上げるは、物憂げなを微笑を浮かべている。その姿は、どこか悲しげで、でもどこか楽しそうにも見える。──そう、雨降りの中はしゃぐ子供のように。純真さを失わないスポーツ少年の顔だ。
「どうしたのよ、急に立ち止まっちゃって」
少し先まで歩いていた亜弥子は戻りながら、知らず立ち止まった私に言う。
 「あ、なるほど。長谷部くんだったんだ」
 そう小声で呟くと、ウンウン、と数回頷く亜弥子。
「ちょっと、な〜によニヤニヤしちゃって」
 そう言って亜弥子は私のほっぺたをつつく。
「ちょっ、ニヤニヤなんてしてません〜!」
「皆まで言うな、皆まで言うな。吾輩には分かっておるぞよ……」
なんて、ふざけたもの言いをする亜弥子。ジト目を使ってやると、流石にこのテンションで話すのを諦めざるを得なくなったようだ。
「ゴメンゴメン。でもあんた、“旦那”がずぶ濡れじゃない。いいの? 放っといて」
「ちょっと、旦那って何よ」
「似たようなもんでしょ、あんた達一緒にいる時間長いもの」
「あのねぇ……」
「ホラ、傘でも指して来てやんなさいよ!」
そう言いながら、亜弥子はこの場を立ち去ろうとする。
「どこ行くの? 一緒に帰んないの?」
そう私が聞くと、
「ジャマモノは退散するに決まってるでしょ! じゃあね、明日また!」
と亜弥子は手を振って去っていった。
確かに亜弥子の言う通り、今でも朝は一緒に登校しているし(というよりは、あまり朝が得意でない雄大を起こしに行っているのだけど)、時間が合えば一緒に帰っている。クラスも同じため、自動的に二人でいる時間は長いものになる。


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