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雨のもたらすもの 〜Rain of Love〜
【青春 恋愛小説】

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雨のもたらすもの 〜Rain of Love〜-1

「伊津美〜、置いてくよ〜!」
「ちょっと待って、まだ支度出来てない……」
「まったく、もちっと早く動きなさいよ!」
「亜弥子が急ぎすぎなのよ」
高文連も近い日の放課後。今日は所属する吹奏楽部の放課後練習は無い日なので、楽器の整理をして、帰り支度を始める私。親友の亜弥子は既に音楽室の扉に寄りかかって、私を待っている。
亜弥子の言うとおり、私は他の人より動きが少しトロイらしい。だけど、その言い方はほんのり、私のか弱いハートに傷をつける……
『バシっ!』
「痛!」
 デコピンをされた。何気に亜弥子はデコピンが得意なので、地味ながら痛い。しかも少し自分の世界に浸ってしまったので、ツッコミを入れられた気分。うう、精神的にもちょっぴり痛い……。
「コラ、手がお留守だぞ〜!」
「あ、ゴメン」
謝りつつ、何とか荷物の整理を終える。
ふと窓の外を見る。西の方から、かなりの速度で分厚い雲が近付いて来ている。
「あ〜……、なんか一雨来そう」
そう思う間もなく、空からシャワーが降ってきて、あっと言う間にそれはアスファルトをネズミ色からダークグレーへと塗装を施す。校門へと繋がるインターロッキングもみるみる内に濃い色になっていく。夕立のようだ。
「あっちゃ〜、降ってきたか……。ねぇ伊津美、アンタ傘持ってる?」
「持ってるよ、ロッカーに大きいのと折り畳みのちっちゃいやつ」
 「ラッキー、折り畳みでいいから貸してくれない? あたし持って来てないんだよね……」
もちろん、と快諾する。
 朝の天気予報では、降らない、となっていたが、とりあえず一番小さい傘を入れていたので、まあ助かったかな。教室のロッカーに、一本傘を入れっぱにしていたのには自分が驚いてしまったけど、結果オーライ。今頃ウチではお母さんが、『やっぱり降ってきたわ、だから最近の天気予報は……』、とグチっていることだろう。
 そういえば、今日はサッカー部の活動日だ、って雄大が言ってたっけ。風邪ひかないか心配だ。
 雄大、フルネームは長谷部雄大【はせべ・ゆうた】と言うが、彼は私の幼なじみで……、正直なところ私の初恋の人。
 好きになった最も大きなキッカケは中体連のサッカーの試合。偶々友達に連れられて応援に行ったとき以来、私は雄大を改めて見直すと共に、一人の男性として見るようになった。
 その時の試合展開は凄まじいものだった。まさに息が詰まりそうな熱戦。実力差はほとんど無く、試合は攻めては守り、守っては攻め、と攻守の入れ替わりが激しいものだった。
 だが後半戦、ロスタイムも残り2分。あと少し粘れば延長戦、そんな時敵のフォワードにヘディングシュートを決められて均衡は破れ、0対1で負けていた。雄大を含め全員の疲労はピークに達していた。そのはずなのに。
 主審の笛が吹かれるや否や、雄大が先陣をきってドリブルで攻め、あれよあれよと敵の選手をかわし、最後にはゴールキーパーまでもかわして同点ゴールを叩き込んだ。
 敵チームのキックオフになったが、すぐさま雄大はボールを奪い取り、前に走り込んでいた味方にスルーパス。ボールはディフェンスの足下を華麗に通り抜けフォワードへ。そのまま、慌てていたのか前に守備位置を取り過ぎていたキーパーの脇を抜けた弾丸シュートはネットを揺らし、ウチの中学校は見事な逆転勝利をした。まさにロスタイムは雄大の独壇場と化した。
 その時初めて雄大が私に見せた、最後まで往生際の悪く、諦めを知らない姿。それはあまりにも鮮烈に私の網膜に焼き付いたのだった。
 これ以来私は、一途に雄大を追い掛け続けているのだ。


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