投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

大陸各地の小さな話
【ファンタジー その他小説】

大陸各地の小さな話の最初へ 大陸各地の小さな話 27 大陸各地の小さな話 29 大陸各地の小さな話の最後へ

プライスレス・プレゼント-2

 
 **** 
 
 
 サーフィがフロッケンベルクで暮らすようになり、一年近くがあっという間に経過した。

 明日は、六月の某日。
 祝日ではないが、サーフィにとって非常に重大な日。ヘルマンの誕生日だ。

(今年こそ……っ!!)

 内心で気合をいれ、拳を握る。
 大好きなヘルマンに、いつかちゃんとした誕生日プレゼントを贈りたいと、ずっと考えていた。

 シシリーナで吸血姫だった頃は、自由に出来るお金などなかったが、バーグレイ商会の護衛で貯めた給金も残っているし、士官学校で毎週、剣術師範を務めている分もある。
 プレゼントを買うには十分な金額だろう。


 でも……そのプレゼントは、一体何にすればいい?




 この時期、フロッケンベルク王都は雪もすっかり解け、空気も暖かくなっている。
 あと半月もすれば、各地から隊商が続々と森林を抜けてやってくる。
 乏しくなってきた食料品を彼らの馬車から補充し、代わりに冬の間作っておいた品々をたっぷり売るのだ。 

 もうすぐ訪れる夏への期待に、通りは盛大に活気づきはじめていた。
 見るだけでウキウキするようなショーウィンドウの列を、サーフィはじっくり覗きこむ。



 店はたくさんあり、飾られている品物はどれも素敵なのに、これぞというものが見つからないのはどうしてだ。

 この一年、ずっと探しているのに見つからないのは、どういうことだ。



 真剣そのものに店先を凝視していくサーフィは、まるで果し合いに望む騎士のようだ。
 もともと人目を引く美貌なので、殺気すら感じるその姿は余計に目立ち、道行く人がチラチラ振り返る。

 街角に立っていたプレッツェル売りの男は、その様子を面白そうに眺めていたが、しまいに見かねたらしい。近づき声をかけた。

「お嬢さん。そんなに怖い顔をして、何をお探しかな?」

「!!」

 ビクン!とバネじかけのようにサーフィは振り返り、ようやく我に返る。

「あっ!いえ、そ、それが…………え?」

 美味しそうなプレッツエルが満載の籠を持った中年の男は、深めに被った帽子の下で、にこやかに目を細めている。
 日に焼けた顔色は、染料で塗ったのだろうか。

 この人がこんな場所でプレッツェルを売っているなど、たいていの人は思いもしないだろうが、間違いない。

「陛……」

 思わず言いかけ、サーフィはあわてて口を押さえる。

「ごきげんよう、サーフィさん。一つサービスだ」

 お忍び大好きなフロッケンベルク国王にして、自称・ヘルマンの甥っ子。ヴェルナーは、香ばしいプレッツェルを一つ差し出した。




大陸各地の小さな話の最初へ 大陸各地の小さな話 27 大陸各地の小さな話 29 大陸各地の小さな話の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前