投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

大陸各地の小さな話
【ファンタジー その他小説】

大陸各地の小さな話の最初へ 大陸各地の小さな話 28 大陸各地の小さな話 30 大陸各地の小さな話の最後へ

プライスレス・プレゼント-3


「――あぁ、なるほど。それは至難の業だ」

 公園のベンチに並んで腰かけ、サーフィが誕生日プレゼント選びに苦戦していることを聞くと、ヴェルナーはくっくと笑った。

「叔父上は、あまり物を持ちたがらない人だから」

「そうなのです……」

 そもそもヘルマンは、あまり品物を持たない。
 必要なものだけを必要な量だけ厳選して購入する。
 そこには一部の隙もなく、ヘルマンが持っていないものは、すなわち必要なしと判断された品なのだ。
 ああ……今はその完璧さが憎い。


「あの方は、いつも私の誕生日に素敵な品をくださいましたのに……」

 十八歳の誕生日プレゼントを思い出し、思わず溜め息が零れた。

 シシリーナ王宮から逃亡し、バーグレイ商会の護衛へ迎えられたサーフィは、アイリーンからトランクを一つ渡された。
 ヘルマンから預かった誕生日プレゼントだと聞き、驚いた。
 人生最悪の日になってしまった十八の誕生日、ヘルマンからプレゼントの包みを渡されはしたが、あれは他のものと一緒に王宮へ置いてきてしまったし、もっと小さな箱だった気がする。
 ドキドキしながら開けると、中には着替えや生活用品など、隊商の暮らしに必要な品が一そろい入っていた。

 『誕生日おめでとう。君の望んだ品は、僕には用意できないものでしたので、代わりにこちらを贈ります』

 同封されたカードの文字に、涙が溢れた。
 プレゼントに何が欲しいか聞かれ、サーフィはヘルマンの愛が欲しいと答えた。
 それは、ヘルマンをひどく困らせる要求だったのだろう。
 だから彼は、サーフィが二番目に欲しかった『自由』をくれたのだ。


「……何か、良いプレゼントの案がございませんでしょうか?」

 おずおずとサーフィは尋ねる。
 なんといっても、ヴェルナーはヘルマンと付き合いが長いし、サーフィの知らない側面を色々知っているようだ。
 そのうえサーフィより年長で人生経験も豊富であり、贈り物を頻繁にやりとりする国王の身分。おまけに既婚者で夫婦円満。
 夫へのプレゼントを相談するのに、これ以上ない適任者だろう。

「う〜む、他の人ならともかく、叔父上となると……」

 ヴェルナーは顎に手をやり、真剣に考えていたが、やがて可笑しそうに肩をすくめた。

「私が知る限り、叔父上が欲しがったものなど、サーフィさん以外に無いのでな」

「そんな……」

 思いがけない返答に、サーフィは顔を赤くする。

「叔父上の誕生日、か……」

 公園からは、青空の下で尖塔を輝かせるフロッケンベルク城がよく見えた。城に視線を向け、ヴェルナーは感慨深そうに呟く。

「本来なら、フロッケンベルクの歴史に残る日だったかもしれないな」

「ええ……」

 サーフィは頷いたが、胸中は複雑だった。
 ヘルマンがもしフロッケンベルクの王族として生きていたら、全てが変わっていた。
 稀代の名君として、国暦に名を刻んでいたかもしれないし、フロッケンベルクそのものを、微塵も残さず消滅させていたかもしれない。
 だが少なくとも、サーフィとは出会わなかっただろう。

「力になれなくてすまない」

「いえ、ありがとうございました」



大陸各地の小さな話の最初へ 大陸各地の小さな話 28 大陸各地の小さな話 30 大陸各地の小さな話の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前