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淫靡眼
【その他 官能小説】

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その(三)-4

 正月までの間に舞子と会えないものかと考え続けながら具体的な手立ては浮かばない。それどころか、第一志望の私立の推薦に洩れてしまって状況が騒がしくなった。二次募集にしても公立を受けるにしても年が明けてからの受験である。正月の甲府行きは絶望的となった。
 
 そんな立場であるにもかかわらず、私にはたいした緊張感もなかった。絶えず心を占めていたのは舞子への想い。会いたい。何とか方法はないものか。そのことばかりであった。
 携帯電話はまだ普及していない頃で、子供が手に出来る時代ではなかった。舞子に手紙を書くのも変だし、電話をかけるといってもどうやって呼び出したらいいのかわからない。
 結局、私たちが次に顔を合わせたのは夏休みである。実はその前に五月に一人で甲府に行こうと考えていた。何とか二次募集で希望の私立に入学できた。もう高校生なのだから一人で行ける。親に言ってみようかと密かに目論んでいたのだ。ところが運の悪いことにその年の休日は見事なくらいの飛び石連休で計画は消えてしまった。
 膨らむ期待をもって訪れた夏休みも散々であった。ふだん来ることのない遠い親戚が二家族もやって来て実家も舞子の家も雑魚寝の状態でろくに眠ることもできない有様だった。ドラマで甲府がブームとなって見物に来たのである。人の好い伯父も伯母も苦笑いをみせていた。一泊だけして早々に帰ることになった。
 たった一度、隙を見計らって裏庭でキスをして抱き合った。
「達也……」
「舞子……」
掻き抱き、どうしていいかわからない激しい抱擁であった。
 その時舞子から紙片が渡された。
『八月○○日。一日家にいる。昼間電話して』
後でわかったことだが、その日、法事で家族が留守になり舞子だけが一人残ったのである。


 私たちは日を決めて八王子で会うことにした。大きい街じゃないとホテルがないと舞子が考えたのだ。
 初めてのホテル。誰にも邪魔されない恋人たちの部屋。一年ぶりの触れ合い。何をとっても燃え上がる材料がいっぱいである。
 私たちは意識を失うほど昂奮し、歓喜した。きらびやかな部屋はそれだけで神経を震わせた。何も気にしないでいい解放感が堪らなかった。
「ずっと裸でいよう」
舞子が言い、私は彼女に抱きついた。
 自由奔放な性愛に陶酔した私は溜まっていた感情を舞子に向かって吐き出した。

「舞子、愛してる」
愛してる……自分で口にして体が熱くなる。
「達也、あたしもよ」
セックスの行為そのものに酔っているのではない。あくまでも舞子がいてこそ、彼女を抱いてこそ味わえる悦びである。その想いは舞子も同じだったと思う。
 翌月から月に一度、この秘め事を続けるようになった。
「あたしバイトする」
「ぼくも」
交通費、ホテル代、食事。お金がかかる。
 九月、十月、十一月……。まるで不倫の男女のような、年齢を考えるとずいぶん大人びた恋愛だったと思う。

 会う毎に愛し方も変わっていった。
愛を育むーー。はっきりした自覚があったわけではない。二人の想いが少しずつ温かさを増して大きくなっていく。心が広がっていく。抱き合う度に肌を通して沁みわたっていく気がしていた。
 初めての頃のように体をぶつけ合って貪ることはしなくなった。私は舞子をいとおしみ、舞子も私と愛し合うこと自体を歓ぶようにやさしく愛撫してくれた。
(この時を大切にしたい……)
無言のうちにそんな交流が二人の間に共有できている。そう信じて舞子を包んで溶け合っていた。


 いつものようにベッドで寄り添っている時、舞子は私の髪を指で梳いて、ぽつんと言った。
「達也って、ニオイがする……」
「頭も洗ったよ」
「そういうのじゃなくって、なんか、感じるだけのニオイ……」
(まさか……)
自分もそうだとは言わずに、
「どんなニオイなの?」
舞子はペニスを両手で握って、
「ここのニオイ」
私は舞子の髪に鼻を押し付けた。甘い香りがした。
「去年、川で会ったでしょ?あの時、達也の目を見てたら、ニオイがしたの。どきどきしたわ……」
「目を見ててニオイがしたの?」
「だから、そういう感じがしたのよ」

「ぼく、ずっと前にこうして寝た記憶があるんだ……」
去年、ふと洩らしたことを言った。
「夢なのかな」
舞子は答えず、私の手を取って自らの泉に導いた。
 繁みをくぐり、脚が開き、指は湿地へと入っていった。
「ああ…」
舞子の脚がいったん閉じてふたたび開いた。

「達也……白状する……」
「?……」
「寝たことあるよ。……達也が五年生の時、武と三人で家で寝たことある。憶えてない?」
「……憶えてる」
「武が寝相が悪くて」
そう、足で蹴られたのだ。それは憶えている。
「達也、寝ぼけて起き上がって、寝られないよって。……あたしの横においでって言ったら来たのよ」
記憶の扉が少しずつ開かれていった。そこに何かがあるような予感がして、私は舞子の顔を見つめていた。


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