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ヒプノ・フラッシュ
【SF その他小説】

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ある殺人犯-1

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如月弥生(きさらぎ やよい)というのが、女性警視の名前だった。

年齢は30代だろう。

彼女は橋爪の事件で捜査協力して以来、ときどき顔を出すようになった。

かといって本人が治療を受けに来た訳じゃなく、何かお菓子など手土産にしてやって来ると、他愛のない話をして帰って行くのだ。

だが、彼女が私に気があるとかそんなことでは決してない。

彼女は私が捜査上利用価値があると踏んでいて、私との繋がりを保っていたいのだと言うことだ。

それは彼女にヒプノ・フラッシュをかけて自白させなくても、十分に分かる。

あるとき真剣な顔をしてやって来た。とうとうその時が来たかと私は直感した。

「実は今手がけている殺人の容疑者なんですが、決定的な証拠がないのです。

自白は取っているけれど、そんなものは裁判が始まれば弁護士に入れ知恵されて否認するに決まってます。

何か決め手になるものを聞き出せないでしょうか?」

私は彼女の目を見ずに言った。

「催眠によって犯人を尋問することは法律で禁止されていますね?」

「もちろんです。

けれどもその犯人は幼い子どもと妊婦だった母親を残虐に殺したのです。

しかも狡猾にあらゆる証拠は消し去っていて、代わりに捜査を混乱させるような偽の物証を沢山置いて行ったのです。

捜査が振り回されて長引いている間、彼は証拠隠滅を徹底的にしたのだと思います。

例えば当時身につけていたものはゴミに出すなどして全て焼却されたらしく、家宅捜索しても何も出て来なかったのです。

もうお手上げなんです。

もし向山先生が何かの用事で警察に立ち寄ったとします。

そして取調室にいる犯人と偶然会うのです。

そうですね、間違えてその部屋に入ってしまうのです。

そのときはたまたま私だけが彼を見張っていますが、その私も連日の勤務で疲れて居眠りをしています。

また、モニタールームにも鍵がかかっていて誰も入れません。

そういう状態を30分キープできたら、何か聞き出せないでしょうか?」

私は肩を竦めた。

「刑事ドラマなど見てると、必ず取調室では犯人1人に対し刑事が2人つきますね。

ましてあなたは警視といえど女性警察官です。そんな犯人と2人きりになることが認められるでしょうか?」

「実はその時に組むのが下川巡査部長なのですが、彼には特別に例外を認めさせようかと……」

如月警視は悪戯がばれた子どものようなバツの悪い顔つきをしてそう言った。

「不自然ですね。こうしませんか? やはり犯人には2人刑事さんが付くのです」

私は自分の考えを如月警視に言った。しかしこれは非常に危険な賭けになる。


母子殺人事件は一時迷宮入りになりかけた。

初めは強盗の仕業だと思った。

家の中には土足の跡があり、返り血を浴びた上着が脱ぎ捨てられたいたから、そこから洗い出せると思った。

だがその2つからは何も割り出せなかった。

また凶器は恐らく文化包丁のようなものと思われたが、それも発見されなかった。

また一刺しだけ刺されていたので、怨恨の線は考えなかった。

だが、殺された主婦の元交際相手の男が後になって走査線上に浮かび上がって来た。

男の名前は月島徹(つきしま とおる)25才だ。

 


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