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『清子と、赤い糸』
【幼馴染 官能小説】

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『清子と、赤い糸』-19

「……お」
 不意に、開票係を務めている男子が、開いた紙に書かれている名前を見るなり、面白いものを見つけたような表情をした。
「清子にも、1票入っとるわ」
「えっ」
 想像だにしなかったことである。まさか、自分の名前が書かれるとは思わなかったので、清子は、紙を手にした男子が掲げている名前を目にしても、それが現実だとは全く思えなかった。
「無記名でええとはいったが、気になってしゃあないわ」
「誰やろな?」
「おーい、清子の名前書いたの、誰やぁ?」
 イタズラかもしれんしな、と、清子を前にしてかなり無礼千万な物言いではあったが、何より自身もそう思っていたので、書いた人物が誰なのか非常に気になった。
「ああ、それ、俺だ」
「!?」
 躊躇いもなく、手を挙げて、名乗り出たのは、こともあろうに、岡崎だった。
「○△◇×☆!!??」
 ベンチの中がにわかに騒ぎ出した。その中にあって、もっとも奇声を挙げたのは、名前を書いてもらったはずの清子であった。
「まーちゃんの、アホ! 冗談、いわんといてや!」
「? 冗談なんかじゃないぞ?」
 清子の動揺も知らず、岡崎は普段のままである。彼は本気で、清子に票を入れていたのだということが、よくわかる。
「ほーか、ほーか。岡崎は、やっぱ“清子一筋”やったか」
 同じ小学校出身ということもあり、清子と岡崎がよくつるんでいることは、ベンチ内の皆が知っていることで、騒ぎが落ち着くと“カップル成立やな”という空気が瞬く間に場を支配した。
「よかったやん、清子」
「きちんと、嫁にもらえそうやないか」
「お似合いやなぁ。“スーパー・ベスト・カップル”やで、ふたりとも」
 なんとなく、同僚たちが無理やりに“既成事実”を作ろうとしている雰囲気があって、清子は少し、面白くない感情が湧いてきた。
(人の気持ちも、知らんと……)
 秘めてきた自分の想いを、なんだか茶化されている気にもなっている。
「みんな、騒いで、なにしとるん?」
「キヨちゃんの声、こっちまで、聞こえたけど……」
 やがて、ベンチのざわめきを聞きつけた沙代と頼子が、洗い終わったばかりの洗濯物を抱えながら姿を現したところで、“女子アンケート”は結果が曖昧なまま終わりを迎えた。
「?」
 しかし、同僚たちが“休憩は終わり”とばかりにグラウンドへ駆け出す中、清子だけがその場を動かなかった。
「どうした、清子?」
 岡崎は、いつもと明らかに様子の違う清子を気にしつつ、いつもと変わらない声で語りかけていた。


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