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【ミステリー その他小説】

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独白-2

 和尚は一緒に暮らし始めて程なく、幸の本当の姿に気が付いたようである。和尚の日記には幸がゲンに小さな声で語りかけていたとだけ記されていた。それ以来、恵子のことを報じる新聞や週刊誌を密かにスクラップしていたのである。

 何のために其れが最初スクラップされ始めたのか、今となっては知る由もないが、想像するに司直の手が幸、いや恵子に及ばないことを常に確認していたのかもしれない。

 黄ばんだノートには、恵子の身を案ずる言葉が書き連ねてあった。そして同時に宗教家として人をあやめた恵子に対する仏の許しを請う言葉が何度も何度も書き連ねてあった。

 恵子の身を案ずるこのノートを男が開く事がなかったならば、おそらく似合いの老夫婦として穏やかな暮らしを続けていけたはずである。そのノートが男に幸の本当の姿を明らかにしてくれたことは皮肉と言うしかない。だが恵子が時効を目前に迎えた今、彼女がここにとどまる理由など何一つ無い事も事実であった。

 長く哀しい恵子の独白が済んだとき、傍らにはいつの間にか老いたゲンが寄り添っていた。

 この十五年の間、恵子の声を聞いていたのはこのゲンだけであった。ゲンに話しかけることで、かろうじて精神(こころ)のバランスを保つことが出来たという。

 「ゲン、ありがとう」

 ゲンの頭をなでる恵子の目からはとどまることなく涙が流れ出た。


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