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冥界の遁走曲
【ファンタジー その他小説】

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冥界の遁走曲〜第一章(後編)〜-8

「私は一神 玄武の孫です。
お爺様を殺そうとするあなたの暴挙の理由を聞く権利はあります!」
「知ったような口を叩くな!!小娘が!!」
癒姫はその言葉に怯んで後ずさる。
「俺がどんな苦しみを負ったかも知らずぬけぬけと言葉を吐くな!!」
アキレスの言葉は癒姫を一瞬で沈黙させる。
癒姫は何も言えなかった。
「分かる訳ないだろ」
言葉を紡いだのは闘夜だ。
「そんなもん、言わずに分かるんだったら誰も聞かないだろ。
分からないから聞いてるんだよ」
「…貴様にはもう用はない」
言うと、アキレスは不意に何かをつぶやき始めた。
何と言っているのか闘夜にも癒姫にも分からない。
だが、アキレスがつぶやきを初めた後、突然アキレスの前方に丸い円が地面にできた。
赤い光によって描かれた円は中にいろいろな何かを書き込んでいく。
書き込みが終わると、それは赤い光を放って空に伸びていった。
「な、何だ?」
闘夜は目の前の光の円柱を見る。
その中に、何者かがいる。
人…ではない。
犬のような、四足で歩く生物だ。
やがて光の円柱が消えた時、魔法陣の上にはその生物が乗っていた。
魔法陣が見えなくなるくらいの巨体を持つその生き物は地上でいう、
「チーター…か?」
だが、チーターでない事は明らかだ。
姿は似ていても、体毛の色が違う。
その生き物の体毛は燃えているかのような赤。
大きさはサイのように大きい。
そんなチーターが存在するはずがない。
「猛獣…」
闘夜がつぶやくと、猛獣は視界に闘夜を収めた。
「食っていいぞ」
アキレスが言った瞬間、猛獣は口の中にあった牙をむき出しにした。
長い。
どうやって隠していたのか分からないが、人の頭が3つは余裕で入りそうな口の中から出てきた牙は人の腕の長さとほぼ同等だ。
そんな特徴を持つ猛獣が二人に、いや、闘夜に向かって襲いかかってきた。
「うわぁーーーーー!!」
闘夜は腰を抜かしそうになるぐらいの恐怖に襲われていた。
元々闘う気のなかった闘夜だ。
自分に被害が及ぶとは想像していなかった。
なのに目の前には突然猛獣が現れて自分を食らおうとしている。
経験した事のなあい状況に頭も体もパニックを起こしている。
だが、闘夜の恐怖も知らず、猛獣は襲いかかってくる。
闘夜は尻餅をつき、衝撃に備えて目をつぶった。
…殺される!!
闘夜はあの時のように死を覚悟した。

第五話   「希望の鎮魂歌」

「『月』はまだ来たらず、か…」
ガヴァメントの一室でつぶやく老人。
窓を開けて一人で外を見ている。
この老人は、瞳に何をうつしているのか…?
「神無月 闘夜…彼を助けてやってくれ」
老人はかすれた声でつぶやいた。
部屋には老人一人しかいない。
だが、老人は誰かにそう話しかけた。
決して痴呆症といった類の病気ではない。
何故なら、老人の頼みを聞いている”物”が”あった”からだ。
『娘には抹殺命令を出しておきながらどういう風の吹き回しだ?』
「それは何年前の話じゃ?」
ふぉっふぉっふぉ、と少し怪しい笑いを演出しながら老人は窓の外を見るのをやめて返答した物に視線を送る。
そこにあったのは…
『神無月 闘夜を助けてやればいいんだな?』
「あぁ、今の状況だと闘うしか道はなさそうじゃ。
彼にも武器ぐらいは持たせてやらんとなぁ」
『では行ってくる』
その物体が声を発すると、それは窓を出て一直線に飛んでいった。


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