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【青春 恋愛小説】

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ボタン-4

きみが、幼いときにお母さんを亡くしていると、クラスの誰かからきいたのは、いつのことだったか。
同じとき、何才か上にお兄さんがいて、お父さんと三人で暮らしてる、ということもきいた。
そのお兄さんの暴力がひどくて、家の中がぼろぼろだとか、きみも、その被害を受けてるらしいということも。

きみが、あの落ち着きはらった仮面の下に隠しているものを、ほんの少し知った気がした。
子供でいては済まない世界が、そこにはあったんだと思う。
 
両親が喧嘩ばかりしていて、家にいるのが苦痛だと感じていたわたしにとって、絅ちゃんの隣は、泣きたくなるくらいに安心できる、暖かな場所だった。
絅ちゃんにとっても、そうであるといい、いつもそう願ってた。
絅ちゃんが、大切で仕方なかった。
絅ちゃんの隣の、この場所が、わたしの居場所。
学校のない日は寂しくて、会いたくて。

たぶん、二人とも、孤独なんて当たり前に存在することを知っていた。
それを口にする代わりに、毎日、自分のなりたいものや、好きなものについて話したんだよね。

式は終わり、何人かの啜り泣きをききながら、教室へと戻る。
校長先生の話とか、送辞とか答辞とか、何も覚えていない。
自分の席に戻ると、隣にはもうきみがいた。
きみの目にも、わたしの目にも、涙はなかった。
いつもの、二人だけの笑顔を交わし合う。
最後のホームルーム。
担任の、まだ若い男の先生は、少し涙声で、明るい未来がどうとか、このクラスの思い出がどうとか、そんなことを話している。
内容はどうでも、いつまでも話を続けてほしい、と思った。
いつからか、もう離すことの方がめずらしかったわたしたちの机は、今もぴったりとくっついている。

ずっとずっと恐れてきた最後のときは、すごく簡単にやってきた。
時間は、過ぎてほしくないときほど、早く通りすぎてしまう。

学級委員長の号令で、最後の挨拶が終わる。
教室は一気に騒がしくなり、先生の周りにも、人垣ができはじめた。
寄せ書きをしあったり、写真を撮ったり、泣きながら抱き合ったり、それぞれがいろんなことをしている。
誰も、帰ろうとはしない。
最後だから、本当に。
いつだって会えるけど、ここでこうして、みんなで揃うのは。

わかってるのに、どうして何もできないんだろう。
朝と同じく女子たちの輪の中にいながら、わたしの心は焦燥感でいっぱいだった。
目は、すでに帰り支度をはじめつつある、絅ちゃんを捕らえていた。
わかってるのに。
わかってるのに。
もう、最後なのに。

「あ!絅ちゃんも写真撮ろうよー!」

一人の女の子が声をかけ、歩きはじめたきみを呼び止めた。
誰とも深く馴染もうとしないきみは、人気者でもない代わりに嫌われ者でもなく、その雰囲気ゆえ、みんなが一目置かずにはいられない存在だった。

みんなの順番を待って、わたしも一枚だけ、きみと写真を撮った。
寄り添うこともせず、妙に離れた位置に二人立って。
うまく笑えた自信はない。

それも終わり、きみは今度こそ、本当に教室を出ていった。
軽そうな鞄と、卒業証書を片手に持って。
二学期のある日から始まった、わたしの宝もののような日々が終わりを告げる。
あまりにも、あっさりと。
最後の最後は、目が合いもしなかった。


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