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【青春 恋愛小説】

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ボタン-5

そのあと、わたしは、沙和と一緒に、部活のお別れ会に顔を出した。
吹奏楽部の後輩たちが、お菓子やジュースを準備してくれていて、壁や黒板が折り紙の飾りで彩られている。
ずっと一緒に頑張ってきた仲間たちと騒ぎながら、わたしの気持ちは落ち着かなかった。
数日前、絅ちゃんと約束したことが、頭から離れなくて。

「果月、どうかした?」

沙和が、心配そうにわたしの名を呼ぶ。
さらに、ぼーっとしてない?ときかれ、遂に、わたしは椅子から立ち上がる。

「ちょっと、教室に戻ってくる。忘れ物しちゃった」

そう言って、わたしは鞄をつかみ、駆け出した。
もちろん、忘れ物なんかない。
何回も確認したもの。

そう。
わたしは、どこまでも行く気でいた。
きみを探しに。
最後の日にっていう、あの約束。
きみは忘れても、わたしは忘れてない。

走っていくと、三年生の教室のある廊下は、もうすっかり静まり返っていた。
今朝からずっと騒がしかった、あの場所とは思えないくらい。
春には、また新しい三年生が、この場所を賑わすんだろう。あの机を使うんだろう。

そう思いながら、五組の教室のドアを開ける。期待はしてなかった。
最後に、あの机を見たいと思っただけだった。
それから、きみを探しに行こうと思ってたのに。

なのに、窓辺にきみの姿を見つけた。
その姿がゆっくり、こっちを振り向き、笑った。

「なんで…」

驚きすぎて、何と言ったらいいか解らない。
朝から我慢し続けてるものが、溢れてしまいそうになる。

「なんか忘れ物したような気がして。長谷川さんは?」

きみがまた笑う。
笑うと線みたいになる目が、好きだった。
いつも、わたしのことを、なんと呼んでいいのか、判らなさそうにしてたよね。
ねえ、とか、あのさ、とか声をかけてきて、どうしても必要なときには、遠慮がちに、長谷川さん、と呼んだよね。

「わたしは、絅ちゃんを探しに。だって、約束のもの、もらってないもん」

わたしはゆっくりと、きみのそばまで歩いていく。
きみは、うん、と言って、自分の着ている制服に手をのばした。
第二ボタンをつかみ、少し手間取って、それを外す。
真っすぐにわたしの方に伸びてきた手から、わたしはそれを受け取った。
手が、触れた。
 
「ありがとう。おぼえててくれたんだね」

きみは、笑いながら頷く。

数日前、わたしは絅ちゃんに、
「卒業式の日に、第二ボタンをちょうだい」
と、そう言った。
絅ちゃんは、古いねって笑いながらも、約束してくれた。
なんでもいい。絅ちゃんの隣にいたって証が欲しいと思ったの。
そしたら、たまたま制服は学ランで。
もう、それしかないって、そう思ってお願いしてた。
忘れられててもおかしくなかった約束。
絅ちゃん。


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