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『由美、翔ける』
【スポーツ 官能小説】

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『由美、翔ける』-21

 
 地元の実業団チームも交えた、毎春行われている地域対抗リーグ戦(通称・フェアリーカップ戦)のため、由美はしばらく、八日市のアパートに通うことができなかった。
『バレーボールで活躍してこそ、僕が好きになったユミさんですよ』
 もちろん、八日市はそれをわかってくれていた。試合の結果を知らせるメールを送るたびに、返ってくるエールを何度も読み返しながら、由美はそれをエネルギーにして、試合に臨むようになっていた。
『“城女のイナズマ・セッター”』
 コート内を縦横無尽かつ正確無比に飛び回るトスによって、いつしか由美には、そういう異名がつくようになった。八日市との“トランポリン・トレーニング”によって鍛えられた体幹と、空中でのバランス感覚が、由美のジャンピング・トスに磨きをかけていたのだ。
『城西女子大学の柏木由美は、次のオリンピックには間違いなく、チームの中核を担っている選手だ』
 もともと、全日本の候補選手としてリストアップはされていたから、上り調子の由美の姿を見て、関係者たちの評価が高まったのは、言うまでもなかった。

「ユミさん、優勝おめでとうございます!」
 “城東スポーツセンター”で、久々に顔をあわせた八日市は、メールで先に知っていた由美の勝利を、満面の笑みを見せながら、もう一度、直接祝ってくれた。
 2週間の日程になる“フェアリーカップ戦”に入る直前まで、“トランポリン・トレーニング”は続けていたが、体への負担を考えて、アパート訪問と併せて控えるようにしていた。
「ありがとう、よっくん」
 だから、こうやって顔をあわせるのも、随分と久しぶりになったのである。
「………」
 そして、由美は、ひとつの決意をもって、八日市との再会を迎えていた。
(今日は、よっくんの部屋に、“お泊り”をする……)
 そのために必要な“外泊届け”を、寮には出していた。
 “フェアリー・カップ戦”で、他の参加チームを全く寄せ付けずに、1セットも失わないという“完全優勝”を成し遂げた城西女子大学のバレーボール部のコーチ陣は、その労いも込めて、部員たちに一週間の休暇を与えた。由美が覚えている限りでも、これまで、三連休というのは何度かあったが、一週間というのは記憶にない。
『インカレに向けて、羽を伸ばす時間を持ちなさい』
 そういうことであろう。
 また、春休みの期間に与えられた一週間という時間を、チームの選手たちがどのように過ごすのか、試す意味合いも込められているのは、皆もよく分かっていることだった。
 由美とても、その“一週間”という期間を、無駄に過ごすつもりはない。こうやって、“城東スポーツセンター”に足を運び、“トランポリン・トレーニング”を始めとして、汗を流し続けているのは、その意味も強かった。
 加えて、トレーニングの後の時間を、より長く八日市と過ごすために、今回、由美は外泊届けを寮に出したのだ。
(でも、わたしから、“お泊りしたい”なんて伝えたら、よっくん、なんて思うかしら……)
 ところが八日市には、肝心のその決意を伝えられていなかった。メールで何度も“お泊まりしても、いいですか?”と、送ろうとしたのだが、送信のタップがどうしても出来なかった。
 信じがたいことだが、この二人、まだキスさえしていない。“城東スポーツセンター”から、八日市の住んでいる“月見荘”に帰る時、手を繋ぐようになったのだが、それが唯一の“スキンシップ”である。
 そして、“城東スポーツセンター”でのトレーニングを終えた二人は、その“唯一のスキンシップ”である手繋ぎをしながら、“月見荘”に連れ立って帰ってきた。


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