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『詠子の恋』
【スポーツ 官能小説】

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『詠子の恋』-17


 二人は、球場に着いた。
「結構、見に来てる人がいるね」
 元プロ選手が立ち上げたクラブ・チーム同士の試合ということもあって、平日の夕方にも関わらず、市営球場の観客席には人がそこそこ集まっていた。
 詠子と吉川は、バックネット裏の中央辺りに席を取り、腰を下ろした。グラウンドでは、赤いユニフォームを着たチームの選手たちが、試合前のウォーミングアップで軽快な動きを見せている。
「あのチーム、“レッド・スペンサーズ”は、瀬戸内カブスにいた、鈴江選手が立ち上げたみたいだね」
 パンフレットを見ながら、吉川が言う。ちなみにその鈴江と言う元・カブスの選手は、捕手として入団したが、2軍暮らしがほとんどで、1軍に昇格することはついに叶わなかった。しかし、後輩や助っ人選手の面倒見の良い好人物だという評判が立っていて、確かにカブスの1軍で活躍する誰もが“鈴江さんには、本当にお世話になった”と口にするものだから、一部では有名になっていた。
「もう片方の、“ブルー・アレキサンダーズ”は、リクルト・イーグルスの城友(しろとも)選手が関わってるらしいね」
 城友は、俊足の選手として1軍でも活躍した期間があり、世間的には彼のほうが名前は通っているだろう。引退した後は、野球選手の第2の人生をサポートするための法人を立ち上げ、その代表に名を連ねている。そして、このクラブ・チーム対抗戦は、そんな“キャリア・サポート”の一環として開催されたものであり、城友本人はこの場に居ないが、同じように元プロ選手だった法人関係者が、コーチングを始めとして、それぞれのクラブ・チームをサポートしている。
「………」
 野球にも、いろんな形がある事を、詠子は知った。
「プレイボール!」
 クラブ・チーム同士の試合が始まり、吉川の表情も真摯なものになった。
(吉川クン、真剣になってる…)
 “デート”のようなものだと浮かれていた自分が、少し気恥ずかしい。詠子は、彼の邪魔をしないように、静かに座って、目の前で行われる試合を眺めることにした。
 硬式球を使っての試合なので、打球音やミットの音が、吉川たちのしていた試合に比べると、かなり大きい。使用しているのは木製バットなので金属音こそしないが、打球の速度や、音の重みなどは、軟式球よりも強いと感じられた。
「ボールの違いって、やっぱりあるなぁ」
「そう、なんだ」
 吉川が言うように、クラブ・チーム同士の対戦ではあるが、かなりスピーディな試合を両者は繰り広げていた。元・プロの選手が指導に関わっていることもあるからか、洗練されたその動きは、見ているものを飽きさせなかった。


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