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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第14話-6


「あ、ああ、ああ……」
 また、“あの夢”を見た。弟の和也が、苦悶の表情のまま、目の前で躯になって倒れている…。脳裏に刻み込まれ、消えることのない“悪夢”だ。
「はあ、ああ、あう、あ……」
 葵は既に、目を覚ましている。しかし、現実と夢の境目が分からないように、天井を見つめる目はその焦点を失っていて、口から零れる声は、正気をなくしている様子であった。
「葵くん…」
 ほとばしる絶叫こそなかったが、葵の尋常でない様子を察知するや、誠治はすぐに眠気を払い、彼女の身体を優しくその腕でに収めて、柔らかく包み込むように、抱き締めていた。
「大丈夫。僕が、ここにいますよ」
「ああ、あう、あう、あ……」
 暴れている様子はなかったから、呼吸が整うまで、自分の温もりをゆっくりと与えてあげればいい。そう、誠治は考えていた。
「………」
 ややあって、葵の瞳に色が戻った。
「誠治、さん……ごめんなさい……」
「いいんですよ。遠慮しないで、お泣きなさい」
「ごめんなさい……う、ううぅ……うああ……」
 葵が、自分を抱き締めてくれた誠治の胸に、そのまま顔を押し当てて、嗚咽を零し始めた。
 この頃は、“悪夢”を見た後、半狂乱となって暴れることはなくなったが、かといってそれに苦しめられることは減らず、そのために荒ぶった葵の心を静めるには、涙が止まるまで、泣かせるしかないのだ。
「うんと泣いて、悲しいものを涙にして、出し尽くしてください」
「うああ……あああ……あああ……」
 それを誠治は分かっているから、葵の涙を止めない。葵が満足するまで泣かせて、その側に寄り添い続けるのが、なによりの介抱だと彼は理解している。
「………」
 やがて、葵の嗚咽は静かになり、そして、止まった。
「落ち着きました?」
「は、はい……ごめんなさい……」
「フフ。泣くのは大丈夫ですが、謝るのはダメですよ。悪いことは、なにもしてないんだから」
「誠治さん……」
 変わらぬ誠治の優しさに触れて、胸がいっぱいになった葵は、ぎゅ、と、その身体を抱き締めた。
「!?」
 かと思った一瞬、その身体を離してしまった。
「どうしました?」
「あ、あの……」
 同じ臥所にいながら距離を置いた葵が、申し訳なさそうな様子で、顔を伏せている。
「ふむ……」
 その様子に思うところがあり、誠治は何も言わず、葵の身体をもう一度、無理やり自分のところに引き寄せて、胸に強く抱き締めた。
「あっ、せ、誠治さん……今は……」
「いいんですよ。葵くんのからだを、抱き締めたい」
「で、でも……」
「抱き締めたいんです」
 葵のかすかな抵抗を、誠治は許さない。そのまま腕の中に葵を丸め込んで、葵が抱えている恥じらいも、全て飲み込んでしまいたいと考えていた。
「誠治さん……」
 その気持ちが伝わってきて、葵も、全てを委ねた。パジャマの下に身に着けている“おむつ”の中に、自らの粗相で充満させてしまった独特の温い水気も、この時ばかりは幾許か忘れることが出来た。


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