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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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36 咎人の償い-4


 ゼノから数十キロ離れた場所。
 塩の道からわずかにそれた密林の奥に、海底城の第十七実験場跡はあった。
 海底城は広いといっても、大規模な実験には広大な面積が必要になる。
 昔、この実験場では、リザードマンの生態研究が行われていた。
 今ではもう結界も取り払われ、火山灰コンクリートで造られた古い建物は、風雨と雑草に侵食され、ひどく傷んでいる。
 海底城の存在を疑われるような品は残っていないが、そもそもここへ来る人間などいない。
 密林を半分も進まないうちに、リザードマンに食い殺されるのがオチだ。

 気が済むまで研究され、そのあと放置されたリザードマンたちは、より高い知能と体格を得て、この密林で繁殖していた。
 繁殖期の隙を狙う知恵を身につけ、他の竜族たちをこの地から追い出し、旅人達を苦しめていたリザードマンたちは、ここ数ヶ月ですっかり減少していた。
 マウリの手で密林入り口に近い沼へ薬が溶かされ、操られたリザードマンたちは遠いジェラッドの地へ連れていかれたからだ。
 しかし全てがその沼に浸かったわけではなく、巣となっていた実験場跡には、まだ凶暴なトカゲたちが住み残っていた。
――ただし、今日は彼らにとって災厄の日だった。
 飛び込んできた手負いのドラゴンの血臭に引き寄せられ、襲いかかろうとしたリザードマンたちは、金色の眼から放たれる業火で残らず消し炭とされたのだろう。
 炭化したリザードマンたちの死骸が、あちこちに転がって異臭を放っている。

「ミスカ……」

 割れ目から伸びた雑草を避け、ひびの入った床を踏みしめる。
 焦げ臭い煙の中、ミスカは崩れかけた壁にもたれ、座り込んでいた。
 人型に戻っていたが、竜化の名残で首から下の全身を青銀の鱗がまだ覆っており、それより少し明るい青銀の髪も、ぐしょ濡れて体に張り付いている。
 左肩から斜めにかけて深い傷を負い、汗と海水と血で全身を濡らし、荒い息を吐いている。
 強い陽射しが天井の壊れた建物に降り注ぎ、濡れた青銀の鱗に反射していた。

「よっ、エリアス」

 額に脂汗を浮かべながら、ミスカは相変わらず人を喰った態度で手を振る。

「助けてくれる……ワケないよな?殺しに来たんだろ?」

「ええ」

 エリアスの傍らで、いびつな空間がグニャリと開き、勝ち誇ったツァイロンの上体が現れる。

「昔、何度もお前の反抗を許してやったが、今度こそやりすぎたな。一度は大人しくなったと思ったが……海底城の技術があってこそ、魔眼を制御できたというのに、恩知らずが!」

 ミスカが口元を歪める。

「あんな場所で、死骸みたいにテメェの玩具でいるくらいなら、本当に死んだってやりたいことやったほうがマシだってだけさ」

「フン、命のかけらを開放し、作品たちの英雄きどりか?」

 ツァイロンも口元を歪め、あざ笑った。

「海底城は、この程度では揺るがん」

「へぇ、そりゃ残念。けっこう派手に暴れたんだけど」

 エリアスは黙って、二人のやりとりを眺めていた。
 ほんの数分前まで、考えもしなかった光景は、まるで現実に見えない。

「良い知らせがあるぞ、ミスカ」

 ニタリと、ツァイロンの声が残酷な喜色を帯びた。

「城の作品たちはな、使用人も実用タイプもほとんど全員が、おとなしく命のかけらを返した。お前の裏切りに加担する気はないそうだ。賢明な判断よな」

「……ふぅん」

「何匹かは便乗して逃げたがな、すぐ捕まえて処刑する。外に散った分も、いずれ回収する」

 黙りこんだミスカを前に、ツァイロンは高笑った。

「お前もここで死ぬ。お前のやった事は全部無駄だ!!」

 そして、鞭のように厳しい声がエリアスを打った。

「エリアス!!ミスカをこの場で殺せ!!」

 ビクっと、思わず肩を震えた。それを見たツァイロンが、不意に口調を柔らかくする。

「昔から誰よりも従順だったお前なら、わたしを失望はさせまいな」

「……はい」

 自分でも驚くほど、乾いた抑揚のない声で答えた。

「せめてコイツが執着した女の身体になって、トドメを刺してやれ」

「……かしこまりました」

 従順に頷き呪文を唱える。女の身体になっていくのが、文官服の上からでもはっきりわかる、。
 マントを片手で脱ぎ捨てると、薄いシャツを窮屈そうに張り詰める胸元が露になった。
 何度も抱いた身体に、ミスカが目を細めた。

「ハハッ、趣味のよろしいことで。どうせならもう一枚脱いでくれよ」

 ふざけ半分の声音も、エリアスには殆ど届かなかった。

「ミスカ…………」

 目の前には、あれほど強かったミスカが手負いで座り込んでいる。
 魔力増強の腕輪が、エリアスに力を送り込んでくる。
 今なら確実に殺せる。殺すよう許可も出ている。
 自分の両眼が、止めようもなくギラつくのを自覚した。

 大嫌いなミスカ。
 憎くてたまらないミスカ。
 エリアスの飢えを暴いた、愚かなミスカ。
 抱き締めながら、いつもいつも囁きかけた。『貪欲に欲しがれ』と。
 エリアスが何に飢えているか、知っていたから!!


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