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恋する気持ち
【学園物 官能小説】

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恋する気持ち-8

――思い出す。
試合も終了間際の時間帯。
点差は開く一方で、誰が見ても勝敗は明らかだったその時に、情けなくて悔しくて、諦めきれない俺が最後に放ったシュート。

その瞬間が切り取られて、確かにそこに在った。

「…これだけ見たらちゃんと試合っぽいけど、実際はひどかったからなぁ。うちの学校伝説の黒歴史になりそ…」
「――そんなことないっ!!」
未だ自分の中で燻る苦い思い出は、俺に自虐的な台詞を吐かせようとして。
でも。
それは、最後まで声になる前に打ち切られた。
「…阿川?」
「そんなこと…ない。だって、あの日の直樹の怪我は、人を助けたんじゃない」

「―――……!お前、知って…」

誰にも話したことのなかった、あの日の出来事。

「私、見たよ。あの日の朝、駅にいた直樹のこと。私も、試合を観に行く途中だったんだよ」
阿川は、相変わらず真っ直ぐに俺を見つめたまま話し続ける。
ひたむきに訴えかけるようなその姿は、いつものクールで大人びた阿川とはどこか違って見えた。
「あの時、混雑した駅の階段から、子供が落ちそうになったよね。そして、それを無理な体制で防いだ直樹は…足を、挫いた」
「あぁ、まぁ…。もう少し楽勝かと思ったんだけど、ガキんちょが予想以上に重かったんだよ」

『詰めの甘い男』である俺を象徴するかのような顛末。
結局、試合会場である学校へ向かう電車にも乗り遅れそうになって、痛む足を引きずりながら駆け込み乗車。
その後、学校までダッシュ。
そりゃあ、試合開始の頃には足だって腫れまくりだよな。

「私ね、怪我をした直樹は試合に出ないと思ってたの。…でも、直樹はコートにいた。私、びっくりして周りの人に聞いたら、誰も直樹が怪我をしていることなんて知らなかった」
「いや、だってあんな間抜けな話、したくねぇし…」
「…間抜け?」
「だろ?全国大会初戦の朝にグキッて。アホだろ、俺」

――プッ
(…ん?)
「アハハ…」
突然。
阿川の笑い声。
「あの〜、阿川?」
「――もう!変わらないな、直樹は」
「え?」
「いつも…いつでも、直樹はずっと、私の中のヒーローだった」
「…………?」
「小学校の時、転校翌日のトイレ事件で泰臣にからかわれた私を助けてくれたのは、直樹だったよね。中学校でも『女史』ってあだ名で周りから距離を置かれがちな私のこと、普通に名字で呼んでくれて。普段の態度は素っ気ないし冷たくて目も合わせてくれないのに、私が困ってる時、直樹は必ず助けてくれた」

――それは。
だって、いつもお前を見てたから…っていうことなんだけど。
でも…。
これって、もしかして、もしかしたりする?
何となく、両想いな雰囲気じゃない?

「阿川…」
「ずっと…ずっとね」
え、マジ!?
来るのか、これはっ!!

「直樹みたいな兄弟が欲しいと思ってたの」
「―――――……!!」

詰めの甘い男、本領発揮。
き、兄弟…。
「私、一人っ子だから…」
心の涙が大洪水の俺に気付かず、阿川は話を続ける。

――いや、でも待てよ俺。
最後なんだぜ、本当に。
片思いだったって、いいよ。
阿川にとって、俺はヒーローで身近な兄弟のような存在だったってこと。
それだけでも、すごい嬉しい。
…だから、阿川。
ひとつだけ、お願いがある。
今からお前に人生初の告白をする男のことを、どうか今しばらくは、お前の中の思い出に残しておいてほしいよ。
どうか――…。

「あ、阿川っ!」
「ごめんなさいっ!!」
(ソッコー振られた〜っつーか、まだ何も言ってねぇ!)
「あ、あの…」
「ごめん、直樹。…私、あなたに謝らなきゃならないことがあるの」


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