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恋する気持ち
【学園物 官能小説】

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恋する気持ち-9

(…謝らなきゃならないこと?)

「何を…」
「――この試合の時、直樹が怪我をしていることも、その理由も、知っていたのは会場内で私一人だけだった。だから、もし直樹が倒れてしまうようなことがあったら、今回は私が助ける番だって思って、私、必死に直樹を見つめてた」

俺に向けられていた阿川の視線は、再び壁にある写真パネルへと移っていく。
「――それなのに!私、最低だよ…」
「阿川?」
視線の先で、細い肩が小刻みに揺れた。


「私――…直樹に、欲情、したの」

ゆっくりと、俺を振り返る阿川。
その――顔。
白い頬はうっすらと赤く染まって。
潤んだ大きな瞳。
濡れた唇は、次の言葉を紡ごうとして微かに震えている。

(…ちょっと、待てよ)
俺は、無意識に息をのんだ。
こんな阿川の表情、初めて見る…。

――ドクン、と。
胸を、何かで撃ち抜かれたような傷みが走った。
11歳の阿川に恋した、あの時よりも何十倍も大きな感情が全身を奔流する。
(――ヤバイ…)
頭の中に鳴り響く警告音。
俺の中で、止められない衝動が騒ぎ出そうとしている。

「欲情、って…?」
一気に存在が軽くなったなけなしの理性を振り絞り、張り付いたような喉の奥から出した俺の声は予想以上に低く掠れていた。
そんな問いかけに、阿川の赤く濡れた唇が小さく開く。
「…痛みに耐えながらコートを走る直樹は、いつもの見慣れた直樹じゃないみたいで。その辛そうな表情に、私だって苦しくなったのに――同時に私…濡れてたの」

阿川が、一歩前に出た。
30センチ分近づいた俺たちの距離は、たぶんもう、どちらかが手を伸ばせばお互いに触れてしまえるほどで。
でも。
金縛りみたいに固まった俺の腕は、まだ阿川に届かなくて。
「あ、がわ…」
掌が、じっとりと汗で湿り始めたのを自覚する。
人気もなく、乾いて冷え込んだ西校舎の廊下だったはずなのに、今、俺が感じているこの熱さは気のせいなんだろうか?


「あの時、ボールに向かって伸ばした直樹の腕に、ゴールを見つめる目に、流れ落ちる汗に、私の身体は射抜かれてしまった。手も足も冷たくなって動けないのに、でも、たった一ヵ所…私の身体の一番奥だけは、熱くて疼いて、ぐちゃぐちゃになってた」
阿川の言っていることがわからないほど、俺だってガキじゃない。
だとすれば、これは両想いってことなのか?
それとも、阿川にとっては只の懺悔なのだろうか?

「それからの私は、直樹を見るたび身体の芯が疼いて、直樹に触れたくて、触れてほしくて仕方がなかったの」
阿川が、もう一歩俺へと歩み寄った。
俺たちの距離は影が重なる程に近付いていて、それはお互いの息遣いが伝わるほどで。
呼吸の仕方を忘れたんじゃないかっていうくらいの息苦しさの中、俺は、壁に押し付けた自分の背中で汗が流れ落ちていくのを自覚していた。


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