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天野安冶の受難
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誕生祝い-3

甘粕は俺の誕生日を羨ましがっている。
何故なら奴の尊敬するジャッキー・チェンの誕生日だからだ。
さらに鉄腕アトムの誕生日でもあると言う。だが俺は言ってやった。
お前のは釈迦と同じ日だろうって。全世界で花祭りをやって祝ってるじゃないかってね。

それはともかく甘粕といえば、ある世界では有名なんだ。
その世界はあまり日の当たる世界ではない。
俺のような健全な高校生とは縁の薄い世界だが、実は暴力の世界だ。
中学校のときだったか4月8日に俺は甘粕の姿を捜し求めた。
そして見つけたのが学校の裏手だった。
甘粕は3人相手に喧嘩していて、ちょうど3人目を殴り倒すところだった。
俺の姿を見て甘粕が走って来た。
顔と手から少し血が出ていたが、俺の顔を見るとにやっと笑った。
そして立ち止まると親指を立てて前に出した。
「おめでとう……」
俺はそれを言うと慌てて走って来たよ。それを追いかけるように甘粕が叫んだ。
「ありがとうな!」
おれは振り返ると片手を上げている甘粕に頷いてみせた。そしてまた走った。
いったい俺は何をしてるんだろう?
甘粕と俺の接点は1年に2回だけだ。4月7日と8日だ。
『誕生祝い友達』という特殊な関係なんだ。
俺から始めた訳じゃないが、途中で止められなくなっている。
甘粕は伝説を持っている。小学生の時中学生2人をやっつけたとか。
5人相手にやって勝ったとか?中には10人相手に勝ったとかいうのもある。
ヤクザをコテンパンに伸したという話も聞いたことがある。
もちろん高校でも甘粕に戦いを挑む勇気のある奴はいない。俺も誕生日以外はなるべく近づきたくない。

 


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