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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第11話-5

「………」
 次打者は、8番の結花である。彼女の目から見ても、若狭がこの打席で見せた“男気”は、とても格好のいいものだった。
(絶対、繋ぐんだから!)
 結花は、三塁コーチボックスの品子に注意を向ける。エレナからのサインは、品子を通じて打席に送られるから、それを確認したのだ。
 品子が出したサインは、“任せる”。送りバントも予想していた結花だが、この日も、ひとつの四球を選んでいるその高い“出塁率”を、エレナは信じたのだろう。
(あの荒れ球は、バントも危ない…)
 一瞬、独断の送りバントも考えた結花だが、相手がサウスポーで、しかも、球が荒れている点を思えば、バントによる進塁打は、実は危険な要素が強いと感じていた。
 サウスポーの特徴として、一塁走者と常に相対した状態でマウンドに立つことができる点がある。無理のない体勢で走者の若狭を牽制しながら、その走塁リードを最小限に抑えることが出来るのだ。
 また、浦とは違って若狭はそれほど足が速くない。走塁リードが狭められている今、よほど上手いバントをしなければ、彼を二塁に進められないだろう。
 結花はバントが下手というわけではない。ただ、相手の球が荒れているが故に、意図せず大きく外れたボールが、逆にバントの空振りを誘い、若狭が二塁でそのまま刺されてしまうという可能性が否定できない今、より確実性の高い方法で、次打者の航に繋げていかなければならないと、そう考えていた。
 ならば、粘りが身上の“納豆打者”として、本領を発揮するのが良い。
 結花は、意外にもそのネーミングが嫌いではなかった。なぜなら、納豆は大好物だからだ。
(粘りついてやるわよ!)
 糸も引くぐらいに、ボールに纏わり付いてやる。結花の気迫が、マウンド上の相模大介に襲い掛かった。
「………」
 気圧された、わけではないのだろうが、相模大介がやや間を置いて、その初球を投じてきた。
「ボール!」
 外角の、ストレートであった。結花は、“クロス・ファイヤー”で内角を抉られることにも臆していない。当たったのなら、もうけもの、とさえ思っている。
「ボール!!」
 二球目も、同じように外角に来た。臆しているのは、ひょっとしたら相手のほうなのかもしれない。
 だが、結花は油断をしない。何しろ相手は、昨年の全国高校軟式野球大会で好成績を挙げた、注目の左腕投手なのだ。
「ストライク!」
 内角に来た“クロス・ファイヤー”で、結花に当てることなくストライクを奪ってきた投球がそれを物語る。これは振ったとしても、バットに当てられなかっただろう。
(やるわね…)
 外角に逃げ続けたとしたら、見損なうところだった。だが、内角をしっかりと攻めてきた相模大介に、結花は、“好敵手”としての好感を持った。
「ストライク!!」
 内側を一つ見せて、外角を突く。インサイドワークの基本というべき配球は、結花のバットを動かすことなく、これでツーストライク・ツーボールの並行カウントになった。
「ファウル!」
「ファウル!!」
 ここからが、“納豆打者”と呼ばれる結花の真骨頂だ。
「ファウル!!!」
 三球連続のファウル。アウトコースに続いた際どいボールを、結花はファウルで、ことごとく弾いて見せた。
(こい……こい……)
 と、狙うボールを念じて待つ。それが来るまでは、納豆のように幾重にも糸が引くような粘り気で、ボールに絡みつく覚悟であった。
 相模大介が、結花に投じる9球目。
「!」
 きた。ボールが自分に向かってくる軌跡を描いている。その勢いは、ストレート。そして、
(“クロス・ファイヤー!”)
 高速スライダーの可能性は、考えなかった。今日の試合に限れば、その精度が低いことは、結花も気がついており、投じられた“クロス・ファイヤー”に対して、腕をしっかりと折りたたんで、バットのヘッドが先行しないように、また、球威に押し負けないように、腰の回転で鋭いスイングを振り放った。

 キンッ!

「おおっ!!」
 内角の球を、一・二塁間へ打ち放った。当然ながら、若狭が進塁しやすくなるための打球の方向を狙ったのだ。
 そして、バットの芯できちんと捉えたその鋭い打球は、追いすがる二塁手のグラブに届かず、一・二塁間を抜けて、右翼へと達した。
 ライト前ヒットである。
「片瀬、ナイスバッティング!」
 ウェイティングサークルに立つ航が、言った。結花が“納豆”のように粘りを見せた後、航は心中で決めていることがある。
(好球必打!)
 結花の粘りによって、相手の球筋は横からしっかりと見ることが出来た。打席の中に入る航は、静かにその構えを取り、静謐ながらも漲る気迫で、自分の“間”を作り出す。
「!」
 魅入られたように、初球がど真ん中に来た。これを逃すようでは、せっかく粘ってくれた結花に顔向けが出来ない。

 キィンッ!!

「いった!」
 航が強打一撃で打ち放った打球は、左中間を弾丸ライナーで切り裂いた。それを見て、二塁走者の若狭は悠々と本塁へ還って来る。待望の先制点であった。
「!」
 一塁走者の結花も、品子が腕を振り回しているのを確認して、三塁を蹴り、一気にホームを目指す。中継された送球を、相手のキャッチャーが掴んだ頃には既に、結花のヘッドスライディングがベースに達しており、これで2点目が計上された。
 打った航は、すかさず三塁を陥れていた。2点適時三塁打である。
 試合の勝敗を大きく決定付ける、結花と航の、実に見事なコンビネーション・アタックであった。


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