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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第11話-4

「………」
 だが、“好投手”と言う意味では、双葉大学が擁するエース・草薙大和も、負けてはいない。第2戦こそは、終盤に崩れたところを見せてしまったが、それでも、内角高めを貫く“剛速球(スパイラル・ストライク)”に対する評価は、褪せるものではなかった。
「ストライク!!! バッターアウト!!! チェンジ!!!」
 大和は、強打の櫻陽大学を相手に、この7回表までノーヒットに押さえるピッチングを続けていた。許した走者は、御門一太郎への四球と、“失策(エラー)”と判定された三塁強襲の打球によるものだ。投球内容としては、大和のほうが圧倒している。
 7回の裏は、7番・浦からの打順となった。
 相模大介は、やや制球に難のある投手なので、双葉大学も四死球による出塁が多い、しかし、その好機をなかなかものに出来ていないのも事実だった。ちなみに、死球を浴びたのは、現在打席に入っている浦である。
「………」
 その腰が少し引けているのは、仕方のないところだろう。いくら軟式球とはいえ、威力のあるボールが腹に当たれば、相当に痛い思いをするものだ。
「ボール!」
「タイム!」
 外角のボール球にもかかわらず、腰が完全に引けた浦の見逃し方を見たエレナは、すかさず主審にタイムを告げた。
「ヨシさん、準備はいいですね?」
「おうよ!」
 代打として、若狭を送ったのである。死球を受けた浦の持つ恐怖心は、この試合ではおそらく拭い去れないだろうと、彼女は判断したのだ。
「アンパイア!!」
 その後に、“代打・カゲウラ!!”とでも聞こえてきそうな、ビシッと打席を指差す、とても格好のいいエレナの代打コールであった。
「すいません……ヨシさん……」
 浦が、消沈したように打席を若狭に譲る。
「お前の仇は、しっかり取ってやる! だから、安心しろ!」
 その背中を、“元気出せ”とばかりに強くはたいて、若狭は譲られた打席の中に入った。
「………」
 彼にとっては、1部リーグの試合で初めてとなる打席である。
「ヨシさん! 頼みましたよ!!」
「若狭、男を見せるときだぜ!!」
 双葉大学のベンチ内が、若狭に向かって威勢のいい励声を飛ばし、打席が来るまで間があるため、身体を冷やさないように桜子と軽いキャッチボールをしていた大和も、今はその手を止めて、若狭の打席を食い入るように見つめていた。
 例えベンチにいたとしても、チームにとってムードを高める選手に、若狭は成長していたのである。
「プレイ!」
 主審の手が挙がり、若狭の身体に力が篭もる。内外野の守備をある程度こなし、また、進塁打やバントもそれなりに出来る若狭は、チーム内で最も背が高く(184センチ。ちなみに桜子は、公には182センチと言っている)、いかつい風貌からは想像もできない、ユーティリティー・プレーヤーであった。

 ブンッ…!

「ストライク!」
 内角を鋭く抉る、“クロス・ファイヤー”のストレートに対して、臆することもなくスイングをして見せた。まだ、その軌道に目が慣れていないため、バットはボールの下を振っていたが、死球を受けたことによって消極的にならざるを得なかった浦の雰囲気に比べれば、バッテリーとしては遥かに若狭の方が“怖さ”を感じるであろう。
「ボール!!」
 その“怖さ”が、外角へのボール球に繋がった。おそらくはストライクを狙ったのだろうが、相模大介の“荒れ球”が悪い方へ出てしまった。
 ワンストライク・ツーボール。まず間違いなく、相手バッテリーはストライクを取りに来る。後は球種の問題だが、若狭の狙いはひとつだけだった。
「!」

 キンッ!

「おおっ!!」
 それは、内角を抉ってくる“クロス・ファイヤー”のストレートだった。決め球として持っている相模大介の高速スライダーだが、実はこの試合では、あまり精度が高くないことを、若狭は一塁コーチボックスでそれを見つめながら、看破していた。
 ストライクを取りにくるなら、ストレート…。だから若狭は、それを狙ったのだ。
 打球は鋭い当たりとなって、三遊間を抜けた。見事なレフト前ヒットである。
「ヨシさん、ナイスバッティングです!」
 若狭の代わりに一塁コーチボックスに立っていた浦が、まるで泣きそうなぐらいに目を潤ませながら、若狭にタッチの手を差し出していた。“仇を取る”と、有言実行してみせた若狭の男気に、彼は完全に男惚れしていた。
「おうよ!」
 それを、力強いタッチで返して、若狭は一塁ベース上に仁王立ちした。その雄雄しき後ろ姿を、いつまでも頬を染めて見つめている、そんな浦であった。


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