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紅館の花達
【ファンタジー 官能小説】

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紅館の花達〜金美花・上編〜-5

『今日は貴方に渡したいものがあったのよ…』
そういって、シャルナ様はベットの横にあるタンスから金色のネックレスを取り出した。
『これを貴方にと思って…』
『こ、これを……?』
それは見るからに高そうなネックレスだった。
金色のチェーンに金色の星飾りがついていた。
『えぇ…私には似合わないけど、貴方なら……』
『でも、これは紅様がシャルナ様に買った物では………?』
シャルナ様自身はあまり豪華な買い物をしない、なのでシャルナ様が持っている物はほとんどか紅様のプレゼントのはずだ。
『いいえ…これは私の家に伝わる幸運のお守りなの…』
『そんな大切な物………頂けません。』
『貰って頂戴……私はもう幸せ、だから貴方にも幸せになって欲しいの。』
そういうとシャルナ様は私の首にネックレスをかけた。
『似合うわ……』
『シャルナ様………ありがとうございます………』
視界が滲む……少し涙が出てきたようだ。
指で涙を拭いて、シャルナ様に改めてお礼を言った。
『あと………一つお願いがあるの………聞いてくれるかしら?』
『はい、なんでも……』
シャルナ様が私の手を取り、私の目を見た。
『………あの人を、紅様を暫くの間よろしくね………』
暫くの間? 紅様を?
意味が解らなかった。 だが、それでも私は首を縦に振った。
『………ありがとう………』
シャルナ様はいつものような微笑みを浮かべ、目を瞑った。
『………?』
トサッ―――
力なく、シャルナ様は私によりかかる。
『………シャルナ様?』
妙な沈黙だった。
徐々に高くなる自分の心音が聴こえる。
少し沈黙した後、シャルナ様が口を開いた。
『………私の命が尽きようと………しているだけ………貴方……もう一つだけ、あの人を呼んで頂戴……』
消え入りそうな声だった。

私はシャルナ様をベットに寝かせると急いで部屋の外に飛び出した。
廊下を走り、角を曲がったところでキシンに出会った。
『おぅ、どうしたんだい? そんなに急いで。』
『はぁはぁ……シャルナ様が………シャルナ様が紅様を………』
焦りで上手く喋れなかったが相手には伝わったようだ。 キシンは途端に形相を変えて廊下を駆け出した。
『すぐに呼んでくる!! それまで頼む!!』
キシンはあっと言う間に見えなくなり、私は部屋に引き返した。

シャルナ様はまるで変わり無い様子だった。 だが、確かに呼吸が浅く、時々しかしない。
脈も少しづつ弱くなる一方だ。
『シャルナ様! しっかりしてください!
もうすぐ紅様が来ますから!』
紅様の名前にだけ、僅かに反応がある。 だが、それ以外には無い………
どうすれば良いのだろう? あれだけ勉強した医術なんてまるで役に立たなかった。
『どうしたら……どうすれば………』
悩んでいると、扉が開く音がして、紅様が駆け込んできた。
『はぁ………はぁ………シャルナ………』
息を切らせ、ふらつきながらベットの横まで歩いてきた。
『………紅……様。』
『シャルナ……すまない、皆。
二人きりにしてくれないか?』
紅様はシャルナ様の手を取って、自分の手で暖めるように包みこんだ。

食堂に居た私達にシャルナ様の死が紅様から告げられたのはそれからまもなくであった。 食堂では誰もが悲しく、シャルナ様の死を嘆いていた。
『今朝は………元気だったのに………』
外はいつの間にか雨が降っていた。
人の死には、雨が良く降る。 それは私達と一緒に空が泣いているようだった。
『ウェザは………大丈夫だろうか……?』
紅様は私達に告げた後、独り自室に行ってしまったのだ。
『少し………そっとしておきましょう………』
泣いて赤くなった目、涙は拭いても拭いても出てくる。
『………俺は帰るよ………居ても、俺、意味無いしな。』
キシンは静かに食堂を出て行く。
(何よ……親友の不幸なんだから………少しは励ますとかしなさいよ……)
だが、今の紅様を励ますなど、不可能に近いことを誰よりもキシンはわかっているのだろう。


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