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un.comfortable.
【純文学 その他小説】

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un.comfortable.月曜日-1

大雨の中私はなんとか駅に到着した。制服は案の定1/3程濡れている。

電車の発車音と共に私は気持ちを無理矢理高鳴らせてみた。ふと進行方向を見ると、物凄いスピードでコンクリート壁を追い越している。高架上を走っている為、家やビルは小さい。山やお城は相変わらずだった。
私は誰にも分からぬようこっそりと、お城に敬礼。
―今日も行って参ります。

「おはよ」
「あ、李緒はチョコ作んの?」
「え?何でチョコ?」
「何言ってんの!明日はバレンタインじゃん。小鷹先輩にあげるんじゃなかったの?」
「‥‥そっかぁ明日は2月14日だっけ」
「とぼけた事言ってないでさ、あげるんでしょ?」
「あぁ、あの人はもう終わった」
「早っ。いつもの事だけど」
「まあね」
終わった、というより、元から恋愛感情は無かっただろう。かっこいいという憧れを恋愛感情と錯覚してしまっていたようだ。それに漸く気付いた私は、気付くのが早かった事に後で感謝することになるのだが。

「はい、伝達事項は以上で―」
「きりーつ」
担任の話が終わるより早く委員長が号令をかけた。
「礼」
チャイムが鳴る。
―あ゛〜かったる‥‥
私は言いようの無い気怠さに襲われていた。その訳は、この雨なのか、もしくは寒いからなのか。或はバレンタインの前日という妙な盛り上がりからだろうか。いいや、根本的な原因は他にある。
―そういや友チョコ作んなきゃなぁ。

学校も部活も塾も適当に終わらす。これは私の日常。私のモットー;頑張らない。だったらこの重い感じは何処から来たものか。
―まさか、まだ引きずってんの?私。
私はなけなしの金を持って深夜スーパーへ急いだ。無論明日貰うであろう友チョコのお返しを作る為に。
―ったく、今月残りどうやって暮らせばいんだよ。
レジで受け取った小釣の少なさに溜息をつきながら、レシートにざっと目を通した。

レシートの内訳:クッキーの粉・ラッピング紙・砂糖・バター・TIROLチョコ 計1555円

23:30買物終了。寒さが堪えた。今年は例年に比べて寒波が広範囲しかも長期間に渡って日本列島を覆っているらしい。そんな自然の厳しさは私から家へ帰るという義務さえ奪って行きそうだった。寧ろそうであってほしいと願った。
―帰りますか‥‥
自転車置場までたどり着いた私は、乗り気ではないが自転車にまたがった。完全防備を纏っても、体感温度に大差は無かった。

「寒っ。」
自転車を降りながら独り言を呟いた。そして玄関へ向かおうとした時、私は漸く気付いた。
雨上がりの星空。それは綺麗だった。視力は悪いが、裸眼でも良く見えた。
「―綺麗。」

私は暫くそこに立ち尽くしていた。そして我に返った。
―帰ろう。
それは義務ではなかった。帰りたい、と思った。
「―ただいま。」
「おかえり〜ご飯食べてよ。」
久し振りに自分から言った。それは快く、少し照れ臭かった。
シチューだ。その匂いが空き過ぎておかしくなった腹を刺激した。
―今日は良い日だった。
シチューを頬張りながら、今日一番の幸福に浸った。
なんだか、とても美味しいクッキーが出来そうだ。そんな未来に私はまた一人で微笑んだ。


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