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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第10話-31


「ストライク!!! バッターアウト!!! チェンジ!」
 7番打者を、外角低めのストレートで見逃しの三振に打ち取り、大和は、二回裏を本塁打による1失点のみで乗り切った。本塁打を浴びるまでは、頑ななほどに“スパイラル・ストライク”を投じていたが、桜子のサインを受けるようになってからは、それを一球も使わなかった。
「大和、ナイスピッチ!」
 桜子は、この回はもう、一球たりとも“スパイラル・ストライク”を使うつもりはなかったのだ。あの球筋の残影は、十分すぎるほど相手に植え付けているから、それを利用した配球で、この回を終えることが大事だと感じていた。


  【双葉大】|00 |   |   |0|
  【仁仙大】|01 |   |   |1|


 大和は、スコアボードを見やる。安原誠治に浴びた本塁打は、先制を許す手痛い1発に違いなかったが、“大怪我”をする前で良かったとも思う。
(桜子、ありがとう)
 あの時、何も言わずに手を握ってくれた桜子に救われた想いが、大和にはあった。言葉をかけられるよりも、自分に触れてくれたその体温は、心の中に突き立っていた“棘”の痛みを和らげてくれた。
「………」
 そう。あくまで、和らいだだけで、完全に“棘”が取れていないのも事実だった。
「アウト!」
 3回表の先頭打者、7番・浦はショートゴロに倒れた。当たりが鈍かったのでむしろ、彼の俊足による内野安打を期待したが、そうはいかなかった。
 8番打者の結花が、打席に入った。初戦の粘っこい打席ぶりから、“納豆打者”と早速呼ばれるようになりつつある。
(粘りあいなら、負けないんだから!)
 相手投手がとことん外角を投げ込んでくると、既に分かっている。ならば、それをとことん追いかけてやる、と、とことん気負いこんでいる結花であった。
「ボール!」
「ストライク!」
「ボール!!」
「ボール!!!」
 外角を徹底的に攻め込んでくる相手バッテリー。しかし、思うようにストライクを取れないことに、いささか困惑している様子もある。
(ふふん! わたしのストライクゾーンを、“普通”と同じに思ってるからよ!)
 結花がこれだけ粘っこい打者になれるのは、彼女自身の体格に要因がある。結花は、女子の中では比較的背の高いほうになるが、それでも160センチあるかないか、ギリギリのところだ。男子としてその身長を考えてみれば、相当に小柄な選手と言うことになる。
 必然的に、ストライクゾーンは一般的なものよりも狭くなる。そのうえ、結花は内角を攻められることも恐れずに、かなりベース寄りの位置に立っているから、外角でストライクを稼ごうと投手がそれを投げても、思わずストライクゾーンを外したところに行ってしまうと言うケースが多かった。
「ファウル!」
 ストライクゾーンを攻めれば、結花はそれをきちんとカットで逃げる。
「ファウル!!」
 外角にしか投げてこないとなれば、いくらでもカットできる自信が結花にはある。
「ボール!!!! フォアボール!」
 そうして、根負けした投手が、外側にボールを投げすぎて、結花に四球を与えてしまうのである。それは、ブレることなく外角を攻めてきた仁仙大学のバッテリーも同様のことであった。
「………」
 “納豆打者”の異名よろしく、粘り強い打席をものにした結花を一塁に置いて、9番の航が打席に立った。
 四球を出してしまった投手の、次打者への初球は、高確率で甘いところにボールが来る。ストライクを欲しがって、ボールを“置き”にきてしまうからだ。
「!」
 航への初球は、まさにそれだった。これまでと同じように、外角を狙って投じてきたのだろうが、半個分内側に入っていた。

 キンッ!

「おおっ!」
 それを逃す、航ではない。外側へ逃げるスライダーにきっちりとスイングを合わせて、二遊間を痛烈に破る、センター前へのヒットを放った。
 結花と航のコンビネーション・アタックともいえる、好機を広げるヒットである。
「関根君、大丈夫ですよ!」
 相手にとっては、一死・一二塁のピンチである。一塁手の誠治が、マウンドに近寄って、投手・関根に体を寄せて激励する光景は、よくあるところだろう。


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