投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 694 『STRIKE!!』 696 『STRIKE!!』の最後へ

『SWING UP!!』第10話-30

「おおおぉぉぉぉ!」
 球場がどよめきを含んだ歓声に沸く。代打を挟んでいるが、これで5本連続の本塁打となったのだから、当然ともいえる。
 それも、“完全試合”を達成したことで、投手としても注目を浴び始めた大和からの本塁打であることが、球場のざわめきを助長していた。
(打た、れた…)
 藤島満が“代名詞になる”と言ってくれた“スパイラル・ストライク”を、初めて痛打された。もちろん、いつまでも無敗のままでいられないとはわかっていたが、まさかスタンドまで運ばれてしまうとは…。
 “試合に入り込む”という確信を得る前に、大和は、手痛い一発を浴びてしまったのである。ソロ本塁打なので、1点に過ぎないそれは、しかし、点数以上のダメージを彼の心中に与えていた。
「………」
 桜子がマウンドに来ていたことに、気がつかないほどに…。
「あっ……」
 大和は、右手に生まれた暖かさで、我に返った。桜子の手が、自分の手を握り締めていたのだ。
「桜子……」
「うん」
 言葉は、何もなかった。1発を浴びたことに対する動揺も、“ノーサイン”であるのを良いことに、連投を重ねた“スパイラル・ストライク”に対する諫言も、桜子の表情には、なにひとつ浮かんでいない。
 ただ穏やかに、自分を力づけようとする強い意志が、そこにあった。
「……ごめん」
 だからこそ大和は、余裕を失っていた自分を、冷静に見直すことが出来た。
「ひとりで戦ってしまって、ごめん。桜子、僕がきちんと投げられるように、サインを出して欲しい」
「うん、わかった」
 桜子の微笑が、大和の心に温もりを生み出した。一瞬、なにかズキリとしたものが胸を走ったが、掌を包む暖かさがそれを癒し、大和の心に湧き上るものを与えてくれた。
(そうだ。僕は、なにをやっているんだ)
 今は、試合に集中しなければならない。葵との再会が、心に曇りを生んだのは事実だが、それにかまけて、皆に迷惑をかけるわけにはいかないだろう。
 桜子が自分のポジションに戻り、ミットを構える。
「ストライク!」
 彼女が出したサインは、外角低目へのストレート。それを、寸分の狂いなく投じた大和は、ようやくエンジンが稼動し始めた自分を強く感じた。
(あの1発は、いいビンタだと思おう)
 “スパイラル・ストライク”への過信を、戒める1発だったと大和は切り替えて、桜子の出すサインと構えるミットに、意識を集中することにした。




「ストライク!!! バッターアウト!」
 先制点となる本塁打を放った誠治だが、次打者が空振りの三振に倒れたのを見て、少しばかり表情を険しくした。
「崩れると思いましたがね」
 自慢のストレートを、完璧なタイミングで捉えて、スタンドに運んだ。あれだけ連続して同じ球を放ってこられれば、誠治はそれを容易にこなす自信がある。
 それで、崩れてくれるかとも思ったが、むしろ目が覚めたものか、5番の二階堂に対しては、例の剛速球を一度も使うことなく、三振を奪っていた。
「なかなか、タフな投手らしいですね」
「………」
 誠治の隣に座る、帽子を目深に被った選手は、黙ってそれを聞いていた。
「あの“剛速球”は、それ単体では球威のあるストレートというだけで、何の脅威にもなりません。しかし…」
「ストライク!!! バッターアウト!!」
「あのように、コースを散らされるだけで、投げなくとも“ウィニングショット”になる」
 続く6番の佐伯が、やはり空振りの三振に倒れた。そして、彼に対しても、例の“剛速球”は、一球たりとも投じられていなかった。
「投げないことで、逆に意識させてしまう。それが、あの“決め球”の本当の力なのでしょうね。…やれやれ、僕の1発は、逆に彼の目を覚ましてしまったようです」
「……フフ」
 隣に座る選手が、忍び笑いを漏らした。
「まあ、そうでなければ、こちらとしても面白くありませんからね。本当の勝負は、次の打席の楽しみとしておきましょう」
 “ねえ、葵くん”と、誠治は隣の選手に同意を求めるように呟いた。
「………」
 誠治の言葉に、葵は何も答えず、ただ静かに、小さな頷きを返すだけだった。


『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 694 『STRIKE!!』 696 『STRIKE!!』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前