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狐もふもふ
【ラブコメ 官能小説】

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出会い〜そして〜-2

 彼女はちょこんと正座をして、コホンと一つ咳払いをした。そして――
「あの時は怪我をした私を助けてくれて感謝をする。ずっとずっと感謝の言葉と、そして
このハンカチを返したいと思っていたのじゃ」
「…………」
「お、おい。聞いているのか? 何か言ったらどうなのじゃ?」
「……」
 言葉が出ない。いや、言葉を考える気にさえならない。僕が子供の時に助けた狐が彼女
だというのか? この頭とお尻に狐の耳と尻尾を生やしている古風な話かたをする女性が
あの時の狐だというのか? そんな――でも、何で?
「ずっとあの時のお返しをしたいと思っておっての。本当ならば、手当てをしてもらった
翌日には会いに行きたかったのじゃが、あの時のお前さんはあまりにも幼かったからの。
会っても怯えさせるだけかと思って、今まで待っておったのじゃ」
 彼女はまた一度咳払いをし、
「本当にあの時、助けてくれてありがとう」
 深く頭を下げ、感謝の気持ちを表した。
「い、いや、別に僕は感謝して欲しくて助けたわけじゃ……」
 ただ何かをしてあげたくて――まともな手当てなんて出来ていなかったのに。
「それでも私は凄く嬉しかったのじゃ。お主の優しさに触れて涙が出そうじゃった」
 そこまで真剣に言われると妙に恥ずかしくなってくる。なんというか、子供の時の僕は
とてもいい仕事をしたようだ。
「それで今からが本題なのじゃが――」
「本題? ありがとうって言うのが本題じゃないの?」
「そんなわけなかろう。ただ感謝の意を述べるだけで終わらせるわけにはいかないわ。そ
んな半端なことをしてしまったら、他の神使に笑われてしまうわ」
 そういうものなのだろうか? 僕としては本当に、ありがとうの言葉だけで充分なのに。
「そ、それでなのじゃが……な。わ、私にお主の……」
 指をもじもじとさせ、照れくさそうな顔を浮かべ――
「私にお主の世話をさせてもらえんだろうか」
「――え?」
「何、呆けた顔をしておるのじゃ。人の一世一代の告白を『え?』の一言で終わらせると
は何事じゃ!」
 僕の態度が気に入らなかったようで、怒りを露にする彼女。いや、だって仕方ないだろ。
いきなり家にやってきて、昔助けた狐だと言われ、更には僕の世話をしたいだなんて言わ
れたんだぞ! 思考がフリーズして言葉も出ないし、呆けた態度にもなるよ!
「それでお前さんの返事はどうなのじゃ?」
「え、えっと……」
 チラリと横目で彼女を見やると真剣な表情を浮かべている彼女と目が合った。
 うぐ……っ、このまま彼女を追い出すのは少々、気が引けるかも。せっかく僕にお礼を
言うために人の姿にまでなって、来てくれたというのに。しかも神使ということは決して
暇な存在じゃないはずなのに、僕の世話をしたいと言っている。
 そんな彼女の厚意を無碍にしてはダメだよね。
「わ、分かりました。あなたの厚意を受け取ります」
「おお。さすがじゃな。私が見込んだ男なだけはあるの」
「そういうのじゃないんだけどね……」
 単純に断りにくかったっていうか、彼女の熱意に負けたというか……まぁ、僕自身もあ
の時の狐に会えて嬉しかったし、こういうのも悪くはないよね?
「――あ、そういえば今更なんだけど、あなたのことはなんて呼べばいいんですか?」
 本来ならば、最初に聞くようなことだけど、こんな展開になるとは思わなかったからね。
「ん、私の名前か? 名前なぞ特に決まった名前はないから、お主の好きに呼ぶといい」
「好きにって……」
 そういうのはかなり困る。単純に狐さんって呼ぶのも何だか変だし、僕の家で僕の世話
をしてくれるのならば、やはりきちんと名前で呼びたいのだけど。
「ならば、お前さんが私に名前をつけてくれればいい。そしてその名前で呼ぶのじゃ」
「ぼ、僕が名前を考えるの!?」
「そうじゃ。お前さんがつけてくれた名前なら、私も喜んでその名を心に刻もう」
 なんだか責任重大な感じなってきた。人……なのか微妙なところだけど、人に名前をつ
けるだなんて初めてだし、どんな名前をつければいいのだろうか?
 彼女につける名前。その名前に頭を悩ませていると――
「そこまで気負う必要はあるまいて。名前とは他者と他者を結びつけるもの。故にそこま
で難しく考える必要はない」
 今の言葉で余計にプレッシャーがかかってしまった。他者と他者を結びつける――つま
り相手の存在を意識させる言葉であるとか言われたら、余計に頭を悩ましてしまうじゃないか。
「はぁ……優柔不断というか、なんというか情けないの」
「仕方ないじゃないですか。こういう経験は初めてなんですから」
「……ほう、そうか。名前をつけるという行為は私に対してが初めてか」
 僕の言葉に何故か嬉しそうに笑う彼女。僕は何かおかしなことを言ったのだろうか?
「つまり、お主の初めてを私が頂くというわけじゃな?」


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