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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第7話-26

「大和の球は、どんどん良くなってるよ」
「そう?」
「うん。受け止めた手のひらがさ、すっごく痺れるの。今日の試合なんて、特にそう」
 左手のひらを、じっと見つめる桜子。大和のストレートを受け止めたときに生じる、胸が躍るような恍惚を思い出しているのだろう。
「それが、ね。すっごく気持ちいいんだよ」
 その表情には、艶があった。思わず大和が見蕩れてしまうぐらいの…。さすがに、真面目な話をしている最中だから、押し倒したい衝動はすぐに引っ込めたが。
「二人でいっしょに、亮さんに指導してもらったときからかな。大和のストレートが、変わってきたのは…」
 それは確かな話である。
 臨時コーチとなってくれた木戸亮に、腕の動きの“軸”について教わってから、ピッチングフォームを修正してきたのだ。自分の身体にある“一本の軸”が、指先まできちんと連動しているかどうかを意識しながら、練習を重ねてきた。
 それは主に、大和のアルバイト先である“豪快一打”での投球練習によって行われてきたものだ。ピッチングフォームにわずかなりとはいえ修正をかけようというのだから、ビデオによるフォームのチェックは欠かすことはできない。
「でも、課題もあるんだからね」
「う」
 不意に、桜子の表情が引き締まる。まるで、大学の講師からレポートを受け取る瞬間のような気分で、大和は桜子の言葉を待った。
「コントロールが、ね。ちょっと乱れ気味だったかなと思うんだ」
「ああ…。うん、それは認めるよ」
 ボールを自在にコントロールできるリリースポイントを、まだ完全に自分のものにしていない証拠である。“豪快一打”のピッチングブースにある、各コースに張り合わされた九枚の的を射抜く“エキサイト・ピッチング”でも、まだパーフェクトを獲得していない。
『二回連続でクリアしたら、免許皆伝ってとこだな』
 投球練習に付き合ってくれている藤島満の言葉を、大和は思い出していた。
「大和」
「ん?」
 不意に、桜子が身体を寄せてきた。今日は甘えの仕草が非常に多いなと、大和は思いながらもその柔らかい体を受け止める。
「あたし、いま、ちょっとひどいことを考えてるの」
「え……?」
「ほんとなら、こんなこと考えちゃいけないって思ってるんだけど。でも、次の試合はとても大事な試合だから…。だから、言うね」
「桜子…」
 戸惑いを感じながら、大和は桜子の言葉を待った。
「大和は、マウンドにいなきゃいけない人だって、思ってるの」
「!」
「今日の試合で、それがわかったんだよ…」
 それはつまり、復活を期する大和の投手としての力量が、いつの間にか雄太のそれを超えてしまったということだ。二人のボールを受け止めている桜子だからこそ、それがはっきりとわかってしまったのだ。

“屋久杉雄太よりも、草薙大和のほうが、投手としての実力は上”

 と、いう思考が、どうしても桜子の中で消え去らなくなっている。
「あたしたちのチームのエースは、屋久杉先輩。それは、絶対だし、あたしもそう思ってる。でも、でもね……」
 懊悩が彼女の中にある。雄太がチームの柱として、エースとして双葉大を引っ張ってきたのは間違いないし、それを好んで引き摺り下ろそうなどとは思いたくもない。
 だが、スポーツ選手として卓抜したキャリアと観察眼のある桜子には、両者の実力差というものが現時点に置いて、途方もないぐらいに広がりを見せ始めたことも感じ取っていた。


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