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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第7話-25

 さて、である。
「今日の試合。なんとか勝ったけど、課題もいっぱいだった」
 序盤で5点差をつけられるという、2部リーグ戦の中で最も厳しい試合展開になったのだから、振り返らなければならないことは山のように積まれていた。
 それにもかかわらず、チョメチョメを始めてしまったのだから、その節操のなさを反省するのは当然といえよう。
「屋久杉先輩だけど…」
「うん」
「今日、調子は悪いことなんて、なかった。いつも通りだった」
 カーブの切れも、コントロールも、これまでの試合と何ら変わることのない状態だった。雄太のボールを一番多く間近で見ているのは、バッテリーを組む桜子なのだから、調子の良し悪しを一番見極められるのも、彼女を置いて他にはいない。
「でも、あんなに簡単に狙い打ちされるなんて、思わなかった」
「………」
 先頭打者と5番打者に浴びた本塁打。そのいずれもが、追い込んでからの決め球であるカーブを打たれたものだ。
「トップバッターの時は、少しだけ高めに来ちゃったから、あそこまで運ばれたのかなって思ったけれど、5番バッターに打たれちゃったカーブは、ちゃんとコントロールされていたんだよ」
 相手打線がカーブに狙いを絞っていたのは、序盤でウィニングショットを打ち砕いてしまえば、後は怖いものなしと踏んでのことだろう。そして、それだけの自信もあったに違いない。
「もっと早く対応しなきゃいけなかったのは、あたしの大きな反省点」
 先頭打者に本塁打を浴びた時点で、配球に工夫を加える必要があった。雄太のカーブを過信して、やり過ごしてしまったことが、自分の過失だと桜子は思っている。
「キャプテンのカーブは、狙えば打てると判断されたってことなんだな…」
 “狙い球を絞る”という言葉は、野球の作戦上良く聞かれる事であるが、それを想定した上で東稜大学が、雄太のカーブに対して相当の対策を練ってきたということがよくわかった。
「今日の結果があるから、入れ替え戦はなおのことだな」
 そして、入れ替え戦で対戦することになる享和大学は、最下位になったとは言え1部リーグに所属しているチームだ。過去に入れ替えが発生していないことでもわかるが、2部のチームに比べればそのチーム力は更に上を行くに違いない。
 そして、そんなチームがまさか無策で双葉大との対戦に臨んで来る筈はないから、雄太のカーブは丸裸も同然と思ったほうが良さそうだ。
「見せ球にするって決めてから、カーブは全部際どいところを要求したの、だからその分、球数が増えることになっちゃった」
 ストレートで内外に鋭く揺さぶりをかけて、最後はひらりとカーブでかわす。いつもはそうなる配球に、カーブの割合をいつも以上に増やした。“見せ球”として、ストライクゾーンを微妙に外したカーブを織り交ぜたのだ。
 相手の狙いを分散させる結果にはなったが、ボール球が増えた分、いつもの試合よりも倍近くの投球数を重ねることになった。
「あのままいってたら、多分、もたなかったと思う」
 球数の上昇は、ストレートの球威を奪うことにもなる。試合が終盤になるにつれ、球筋に慣れてくるところでのそれは、致命的な結果にも繋がりかねない。
「………」
 監督のエレナもそれを見越して、雄太にピンチの兆しが現れるやいなや、大和にスイッチしたのだろう。“勝つためのジャッジ”と、そう口にして…。
「だから次の試合も、継投は考えなくちゃいけないって、あたしは思ってる」
「そうか…」
 自分の出番を、想定する必要が大和に生じたことになる。知らず、自分の右腕を大和は凝視していた。


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