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ガラス細工の青い春
【純愛 恋愛小説】

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 更衣室で雑談をしながら着替えをする部員を尻目に、清香は大急ぎで着替えを済ませ「今日ちょっと待ち合わせだから!」と言うと走って更衣室を出た。後ろから「見せつけんなー」「ちゃんとお家に帰りなさいよー」と声がついてくる。それに微笑しながら門に向けて走ると、門柱に背を預けて圭司が立っていた。
「お待たせ」
「全然待ってないよ、ユウんとこでゲームやってた」
 タバコの匂いがするのは、ユウのせいだろうか。雅樹もいたのかも知れない。その匂いをかき消すように、夕方の風が吹いてくる。どちらからともなく歩き始めた。
「夏休みは部活?」
 革靴のつま先に目を遣りながら「そうだね」と清香は頷く。
「大体毎日、三時間練習で、時々練習試合が入ると丸一日、あとは合宿が五日間」
「よくやんなー。それで進学とか考えてんの、すげぇ」
「進学したいのと、進学できるのとは違うからね。とりあえず今は部活」
 ワイシャツの裾をウエストから引き出し、ひらひらと風を送り込みながら圭司は「じゃぁ」とこちらを見る。
「どっか行こう、とか言ってもなかなか難しいって事か」
 清香は片耳をぎゅっと握って「日によっては大丈夫だけど。休みも何日かあるし」と尻切れとんぼのように言う。
「日程表とか、あるの?」
「うん」
 鞄の外ポケットに小さく折り畳んで入れておいた日程表を、圭司に手渡すと「うわー、何だこれ、休み数えた方が早いぞ」と言って人差し指で空欄をトントンと叩く。
「これさ、コピーさせてくれない? 帰り俺んち寄ってよ。母ちゃんいるけど」
 清香は耳を握る手に力を込めて「いや、私、外で待ってるからいいよ」と遠慮する。
「何かされると思ってる?」
 圭司はいたずら気な顔で笑いながら清香の顔を覗き込むので、我慢ならなくなった清香の頬が赤く染まる。
「そんなんじゃないです。じゃぁちょこっと寄ります」
 半分自棄になったような声になった事が更に清香の頬を朱に染めた。
 夜になりきれない空は、奇麗な淡紺色に染まり、遠くの方に光る星が一つだけ見えた。

 圭司の部屋は、二階に上がった正面の部屋で、玄関の真上に位置している。清香の家と同じ作りで、清香の部屋と同じ位置にあった。
「お邪魔します」
 清香の声に反応した圭司のお母さんがリビングから出てきて「ゆっくりしていってね」と笑みを投げてくる。ゆっくりすると言ってももう、清香の家の門限に届きそうだった。
「うち、門限が七時半なんだ」
「七時半?!」
 突拍子もない声が上がる。
「そんなの、中学生じゃあるまいし。今時あるんだな、そういう家」
「うちは門限だけは厳しいんだ。あとはゆるいんだけど」
 圭司の部屋は、ベッドと机、小さな棚とローテーブルが置いてあるシンプルな部屋で、壁にはサッカーのユニフォームが掛けてある。
 複合機の電源を入れ、先程手渡した予定表がコピーされる。ややあって真っ白い紙に予定表が印刷されて出てきた。びっしりと埋まった予定を再度見てしまい、清香はウンザリとする。
「これ、ありがと」
 原本を手渡され、そのまま四角く折り畳んで鞄の外ポケットに仕舞った。
「祭りは行きたいな。あと宿題教えて欲しいな。清香は?」
 ぼんやりと視線を漂わせ、「お金もないし、その辺の公園で喋ってるだけでも十分」と言うと「夢がないな」と圭司は苦笑する。何となくそれに倣って清香も苦笑する。
「清香」
 改めて名前を呼ばれ、無言で圭司の顔を見た時には既に眼前に圭司の顔が迫っていて、次の瞬間、唇を塞がれた。そのまま腰に腕をあてがわれ、しばし時が流れた。
 腕から放たれると清香は跳ねるように圭司から距離を取る。
「こうしておかないと、ユウに取られそうだったから。ごめん」
「謝んないでよ。取られないよ、私、優斗の事は何とも思ってないんだから」
 何故か言葉に焦りが混ざる。この期に及んでどうして優斗の事をそこまで気にするのか、清香は理解に苦しむ。腕時計を見て「時間」と言うと清香は鞄を肩に掛け「メールするから」と圭司にちらりと視線をやった。まともに顔を見てしまうと、朱に染まった自分の顔が見られそうで、清香は顔をあげられなかった。


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