恋愛戦隊ラブレンジャー-8
−部屋を出た私達五人。控え室に戻った。
『ごめん…』
力なく口を開く慎二君。みんな、次に続く言葉が出なかった。
慎二君の取った行動は許される事ではない。しかし、みんな慎二君の気持ちは理解出来る。
それから少し経ってからだった。本日の撮影が中止になった連絡が入ったのは…
−今回の件は、思ったより波紋を広げた。撮影が三日続けて中止になった。まだ事前に収録した映像があるからイイかもしれないが、次を撮らない限り放送に間に合わない。
私は悩みながらも、ジムに通い続けた。
『今日はこれくらいにしようか？』
汗をふきながら、リーダーが言った。
『あっ、はいっ！』
更衣室に戻り、シャワーを浴びる。着替えを終えて出ると、いつもの様にリーダーが待っていてくれた。
『さっ、帰ろう。』
あの件以来、会話が減った。ほぼ、無いに等しい。すると、急にリーダーが声をかけた。
『あの…僕の部屋に寄らない？』
『えぇっ!?』
『い、いやっ！変な意味じゃないよっ！実はさぁ、杏子ちゃん見せたいモノがあるんだ…あっ、イヤなら別に構わないんだけど。』
また、しどろもどろになってる。少し笑いながら返事した。
『イイですよ。何を見せてくれるのか、楽しみだなぁ。』
『そんな、大したモンじゃないけど…』
リーダーが見せたいって言ったモノ。一体、何なのか…？
大きな期待とドキドキを抱えながら、後を追い掛けた…
−『さぁ、どうぞ。』
リーダーの部屋に通された。いきなり目に飛び込んできた本棚。ずらっと並んだビデオと小説。その脇に置かれた薄い本。
『すっ、凄い…』
驚きで言葉が出ない。何しろ、部屋の2/3をそれが占拠してるのだから。
『杏子ちゃん、コーヒーでイイかな？』
『あっ、はい…』
キッチンに向かうリーダー。
完全に目を奪われた。棚の脇にある薄っぺらな本を手が伸びた。
『あっ、これ…』
最近公演された、舞台の台本だった。中を開くとその当時の持ち主の字だろう。ビッシリと書き込みが入っていた。
多分、演技についてのポイントや注意事項だろう。
『やっぱり。もう見つけたんだ。』
カップをふたつ持ったリーダーが、笑顔で声を掛けてきた。
『あっ、すいません。ただ、何かなぁ、って気になったから…』
『気にする事はないよ。実は、杏子ちゃんに見せたかったのって、それだから。』
コーヒーを渡された。そして、一緒になって山積みされた台本を眺める。
『僕、脚本家になりたくてさぁ。この台本も、勉強の意味で関係者の人達から頂いたモノなんだよ。』
『へぇ〜。でも、一杯ありますねぇ。』
『うん、軽く500冊はあるかな？』
『そんなにっ!?』
『でも、まだ足りないくらい。もっともっと、色々な作品に目を通したいんだよ。』
子供の様な顔で話すリーダー。好きな事を語る男性って、何でみんなこんな顔するんだろう？
『で、一番見せたかったのがコレだよ。』
そう言って、本棚の上に乗っていた一冊の台本を手渡された。
『あっ…』
見覚えのある台本。そう、私が劇団員時代に初出演した舞台のそれだった。
『僕が一番感動した、そして初めて君を見た舞台だよ。』
懐かしい。久々に手に取った台本。ボロボロで何度も読み返した跡がある。
『そしてその時、君に惚れたんだ…』
『えっ…』
『あの時の君は端役だった。でも、主役を生かしつつ、自らの強烈な存在感を出していた君に、僕は目を奪われた…』
『リーダー…』
『こんな役者を生かせる強烈な台本を書いてみたい。そう思う様になったのはそれからなんだ。』
リーダーの真っすぐな視線。私に突き刺さってくる。
『実は私も…リーダーの事が好きでした…』
『えっっ…!?』
『真剣に番組作りに取り組む姿勢。私にとって、非常に尊敬出来る姿でした。』
今までくすぶっていた感情。それが次々と言葉になって出てくる。
『多分私、リーダーが側にいてくれなかったら、今まで続けられなかったと思います…』
『杏子ちゃん…』
『嬉しいです。リーダーが私の事…』
全ての気持ちをぶつけた。しかし、リーダーの口から出た言葉は違うモノだった。
『ぼ、僕が惚れたのは…杏子ちゃんの演技になんだけど…』
『へっ…!?』
大いなる勘違い…
拍子抜けした私。その口から、マヌケな声がもれた。
『あっ、でもそれだけじゃないよ。もちろん、女性としても好きだ…あっ…』
リーダーから出た本音。聞き逃さなかった。
『それ…』
そこから言葉が出ない。永い沈黙。そして、意を決したかの様に、リーダーが話し始めた。