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THANK YOU!!
【純愛 恋愛小説】

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THANK YOU!!-7



しばらくして、拓斗が瑞稀の喉を気遣った。正確には唇。
トランペットにとって唇は命。ここを震わせて音を出すのだから。
すぐ楽器を置いて、そのまま来た為に何も飲んでいなかった瑞稀にとっては有り難かった。
じゃあ飲み物買いに行こうと誘われ、快諾した瑞稀は控え室の廊下に拓斗を連れて行った。
自動販売機は控え室廊下の奥にある休憩室にしか無い。ベンチは何箇所か置いてあるのだが。
廊下に入り、最初のベンチを見つけたところで拓斗が「座って待ってろ」と言った。

「え、でも、私も行くよ」
「いいから。瑞稀は休んでろ。疲れただろ?」

そう気遣われてしまうと一概に拒否することも、ついていこうとすることも出来ない瑞稀は流されるままに「分かった」と言って素直に従うことにした。
頷いた瑞稀の頭を拓斗が撫でて、自動販売機のある休憩室へ向かって歩き始めた。
拓斗の背中をぼんやり眺めていると、どこからかさきほど自分たちが演奏した旋律が聞こえてくる。
自分たちの演奏したのとは、だいぶ音層が違うが。

「・・・これ・・」

その音に導かれるように、立ち上がり音の元を探し始める。
ふと、瑞稀の目の前に少しだけ開いている扉を見つけた。そこから光も音も漏れている。
そっと覗いてみると観客席に居たプロの演奏者たちが一斉に曲を演奏していた。
閉会式に演奏してもらうため、演奏していても何ら不思議でも無いが自然に目を離せなくなる。

先程まで、瑞稀は浮かれていた。
あの演奏で自分がどこまで吹けていたのか実感があまり無かったのに対して優羽や香菜、ドラムの子たち、ましてやいつも褒めないヒカリまでもがすごく興奮している状態で自分に賞賛の言葉を言ってくるのだ。それだけじゃない。演奏中に見た観客の反応や演奏が終わった時の拍手。今まで感じられなかった優越感すら感じた。
自分は最高の演奏をしたんだと。やりきったんだと。もしかしたら、叔父を超えられたかもしれない。そんな自尊心があった。

そんな瑞稀の目から、一筋の涙が流れた。それは止まらない。
どうしてかは分からない。だが、今の今まで優越感に浸っていた自分を殴ってやりたくなった。

楽譜の細かいところまで気を配るだけじゃなく、自分の思うようにアレンジを加えてもなお音楽は統一されている。それどころか、更に迫力を感じる。
そこに、強く心が打たれた。この人たちは、凄い。カッコイイ。と・・。
ゴシゴシと涙を拭き取り、そっとその場を後にした。すると、拓斗が探していたようでバッタリ会う。

「どこに行ってたんだよ・・。」
「・・拓斗。」
「・・・どうかしたか?」
「・・私、拓斗の隣に居たい」
「・・・?当たり前だろ・・、だから迷子に・・」

拓斗の文句が、頭に入ってこない。瑞稀の心に、強く根付いたもの。

「(あの人たちみたいに・・、プロの演奏者に、なりたい!!)」

拓斗の隣に、立つための高い目標。それが見つからなかった。
だけど、今見た光景に心が打たれ、深い尊敬が生まれた。
あの人たちみたいに、自分の全てを活かせる・・そんな演奏者になりたい!と・・。

先にどんどん進んでいく拓斗に追いつくための目標。
ゴールが見えた瑞稀は、自分の吹くトランペットの先にある未来を目指すと心に決めた。
そんな瑞稀に、一つ目の結果がついた。






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